連日のようにニュースで報じられるイランやホルムズ海峡の情勢。遠い海外の出来事のように思えますが、現場で汗を流す建設会社の皆様にとっては、決して対岸の火事ではありません。
「また資材が値上がりするのか…」とため息をつきたくなりますよね。しかし、今回の中東情勢がはらむ最大の恐怖は、単なる「価格高騰」ではありません。現場の職人さんたちが最も恐れている事態、それは「モノが届かず、現場が止まること」です。
今回は、予測不能な物流ストップや物価変動による工期延長・コスト増から会社を守るために知っておきたい「スライド条項」について、専門用語を極力省いてわかりやすく解説します。
目次
イラン情勢が直撃する「価格以外の恐怖」
中東の火種が、なぜ日本の建設現場を止めてしまうのか。まずは、いま海を越えて現場に押し寄せている「物理的な危機」の正体から整理していきましょう。
ホルムズ海峡の緊迫がもたらす「物流停滞」の現実
日本の原油や天然ガスの大半が通過するホルムズ海峡。
ここが緊迫すると、海運会社の運航判断や物流全体に影響が及ぶ可能性があります。ルート変更や輸送の遅れが生じれば、日本への資材供給にも影響し、建設資材の納期遅延や調達の不確実性が高まることが懸念されます。
結果として、塩ビ管、鋼材、設備機器などの建設資材について、「頼んだのにモノが入ってこない」「納期が読みにくくなる」といった事態が生じる可能性があります。
お金を出せば買える状況ならまだしも、モノ自体がないため「ただ待つしかない」という残酷な現実が現場を直撃します。
【相談事例】3ヶ月の予定が6ヶ月に…工期遅延に泣くB社
ここ最近よく耳にする事例です。
「発注時は3ヶ月で終わるはずだった民間工事なんですが、設備機器や特殊な鋼材の納期が未定になり、工期が6ヶ月以上に延びそうなんです。元請けに相談したいんですが、今後の関係を考えると波風を立てにくくて…」
現場を動かしたくても、材料が来ないから動かせない。自分たちには何の落ち度もないのに、ズルズルと工期だけが延びていく。こうしたやり場のない悩みを抱えている経営者様は、驚くほどたくさんいらっしゃいます。
工期が延びた建設会社を襲う「目に見えない赤字」
「材料が来るまで待機するだけなら、別に損はしないでしょ?」と思う方もいるかもしれません。しかし、建設業の経理事情を深く見つめると、この「待っているだけの時間」こそが、会社の資金繰りを静かに、しかし確実に圧迫していくことがわかります。
現場が止まっていても発生する固定費と人件費
工期が延びれば、当然ながらその期間中の現場監督の給与、現場事務所の維持費、仮設足場や重機のリース代といった「固定費」が数ヶ月分余計に垂れ流しになります。
さらに深刻なのが職人さんの確保です。技術力が高く信頼できる職人さんとの関係を維持するためには、現場が止まっている間も人件費負担が発生するケースがあります。
現場は全く進んでいないのに、キャッシュだけが毎月飛んでいく。これが工期遅延の最も恐ろしいところです。
待たされている間に他資材も上がる負のループ
悲劇はそれだけではありません。納期遅延でダラダラと工期が延びている間に、当初は想定していなかった「他の資材」や「燃料費」まで、ジワジワと値上がりしていくのです。
半年前に契約した金額のまま、半年後の高騰した経費を支払い続けることになります。こうして、気がついたときには一つの現場の赤字が会社全体の資金繰りをショートさせる「負のループ」に陥ってしまいます。
現場が延びたときの救世主「全体スライド」の仕組み
こうした状況で検討対象となるのが「スライド条項」です。名前は聞いたことがあっても、種類や使い分けが分かりにくい制度です。
工期延長と物価変動をまとめて救う全体スライド
全体スライドとは、一般に、工期が長引く中で全体の物価や賃金(労務費)が変動した場合に、契約やルールに基づいて請負代金の見直しを協議する仕組みです。
「一度ハンコを押した契約だから」と諦める必要はありません。
資材調達の遅延や国際情勢の影響が契約上どのように扱われるかは、契約内容や個別事情によって異なります。
そのため、契約内容や約款の定めに照らし、一定の条件を満たす場合には、発注者との協議によって工期や代金の見直しを検討することになります。
単品スライドとの違いと使い分けのポイント
ここで「単品スライド」との違いを整理しておきましょう。
単品スライドは、一般に、特定の材料(鋼材やアスファルトなど)の価格が大きく変動した際に、その影響を踏まえて協議する考え方です。
一方、今回のように物流混乱による工期遅延が発生している場合には、全体スライドを含め、どのような対応が可能か契約内容を踏まえて検討する視点が重要です。
材料単体の値上がりだけでなく、工期延長に伴うコスト増も含めて、どのような協議が可能か整理する必要があります。
2026年最新トレンドと法改正の動き
「そうはいっても、元請けや施主にお金を上げてくれなんて言えないよ」と思うかもしれませんが、時代は大きく変わっています。2026年現在、国を挙げて「適正な工期設定」と「価格転嫁」を後押しする強烈なルール整備が進んでいます。
法改正が守る「不当な工期遅延・コスト押し付け」の禁止
近年の建設業法改正などにより、発注者や元請けが「資材が来ないのはそっちの問題でしょ」と下請けに過度なリスクを一方的に負担させる行為については、建設業法・下請法・独占禁止法等の観点から問題となる可能性があります。
適正な価格の確保はもちろんのこと、「適正な工期への見直し」もまた、法令やガイドラインに照らして、適切に見直しを求めることが重要とされています。
安さや無理な工期で競争するのではなく、適正な工期で高い付加価値を提供する企業こそが、今の時代に求められているのです。
民間工事でも「言わなきゃ損」な時代への突入
この波は、公共工事だけでなく民間工事にも確実に広がっています。民間(七会)連合協定工事請負契約約款などの標準的な契約書でも、スライド協議や工期見直しの規定がしっかりと整備されています。
「うちは民間工事ばかりだから関係ない」と諦めて泣き寝入りする時代は、もう終わりつつあります。ルールを理解し、適切に対応できる企業が選ばれる時代になってきています。
手続きを進めるための具体的なステップ
では、実際に「モノが来なくて工期が延びそう。大赤字になる前になんとかしたい」となったとき、明日からできる具体的なアクションをお伝えします。
遅延の客観的証拠と契約書のチェック
まずは、交わした契約書(約款)を引っ張り出し、工期変更やスライド条項の記載があるかを確認しましょう。同時に、メーカーや商社から出された「納期遅延証明書」を取り寄せます。
「いつ終わるか分からなくて困っている」と感情で訴えるのではなく、「この資材が届かないため、工期が◯ヶ月延びる見込みであり、それに伴う維持費の増加分はこれくらいになる」という、客観的なデータ(証拠)を揃えることが交渉の第一歩です。
日頃からどんぶり勘定ではなく、正確な帳簿付けを意識しておくことがここで活きてきます。
発注者へ「現場を止めないための相談」の切り出し
証拠が揃い始めたら、手遅れになる前に発注者や元請けへ一報を入れます。
ここで一番大切なのは、敵対して「金を払え」と要求するのではなく、「この国際情勢下で、現場を無事に完遂させるために、ルールに則って一緒に協議させてほしい」というスタンスを持つことです。
法律や契約という根拠があれば、ビジネス上の協議として進めやすくなります。
今後の建設業のあり方
イラン情勢をはじめとする国際物流の混乱は、今後も外部環境の変化によって、工期やコストに影響が生じる可能性があります。だからこそ、あらかじめ用意された「スライド条項」という協議の仕組みを知り、適切に使いこなす「防衛力」が、これからの建設会社には必要不可欠です。
とはいえ、日々の現場を回し、職人さんの手配をしながら、契約書の読み込みや交渉資料を作るのは本当に骨の折れる作業ですよね。
もし「うちの契約書でもスライド請求できるのかな?」「元請けにどう切り出せばいいか分からない」と迷ったら、決して一人で抱え込まず、専門家に頼ってみてください。
皆様が安心して現場に集中できるよう、私たちがしっかりとサポートいたします。
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