「金利1%」が経営を直撃?建設業が取り組むべき資金調達と経審対策

「金利1%」が経営を直撃?建設業が取り組むべき資金調達と経審対策

借入金利の上昇が中小建設業を直撃する現実

「借金の返済が少し重くなってきた」──最近、現場の経営者や後継者候補からよく耳にする声です。これまで長らく続いた低金利環境は、資材価格や人件費の高騰に悩まされる建設業にとって、ある意味「最後の支え」でした。しかし、その支えが揺らぎつつあります。2024年の調査では、中小建設業の推定借入金利が平均で1.14%に達し、全産業の中でも突出して高い水準となりました。

特に短期の借入金利では、「1%未満で借りられる」と答えた企業が2024年後半を境に急減しています。わずか1%の金利上昇でも、借入金に大きく依存する建設業の経営には深刻な影響を与えます。たとえば、年間数億円の借入を抱える企業であれば、返済額が数百万円単位で増えることも珍しくありません。

現場の感覚としても、資材費・労務費の上昇に加えて金利負担が重なれば、「黒字のはずの工事が終わってみたら赤字だった」という事態が起こりやすくなります。こうした状況が続けば、会社全体の経営体力をじわじわと削りかねません。

さらに懸念されるのは、金融機関がこれまで以上に「企業の成長性」や「経営力」を基準に金利を決定するようになっている点です。単に過去の実績や担保だけではなく、今後の見通しや財務の健全性が評価される時代に入りました。つまり、建設業の経営者にとって「資金繰りをどう安定させるか」「経営事項審査でどのように自社を評価してもらうか」が、これまで以上に重要なテーマとなっているのです。

このブログでは、金利上昇という逆風の中で、中小建設業がどのように資金調達を工夫し、経営を安定させていけばよいのかを、制度や実務の両面から整理していきます。

現場から聞こえる「資金繰りの悲鳴」

資材費と人件費の高騰が止まらない

建設資材は鉄筋やコンクリートをはじめ、輸入材も円安の影響を受けて高騰しています。さらに職人不足が続いているため、日当や人件費も高止まりのまま。利益率は年々圧迫され、完成までの工期を借入でしのぐ企業も少なくありません。

金利1%の上昇が経営を直撃する

短期借入金の金利が1%から2%に上がるだけで、数千万円の借入を抱える企業では年間数十万〜数百万円の追加負担となります。数字だけ見れば小さくても、資金繰りに余裕のない中小企業にとっては死活問題です。

無理な工事受注が悪循環を生む

融資を継続して受けるために「仕事量」を確保しようと、赤字覚悟で工事を受注するケースも見られます。しかし、その結果さらに資金繰りが悪化し、財務体質の悪循環に陥るリスクがあります。金融庁のハンドブックでも、この「無理な受注」が中小建設業の典型的な経営リスクとして指摘されています。

価格転嫁ルールが活用されていない現実

改正建設業法で整備された「価格転嫁ルール」によって、資材費や人件費の高騰が発生した場合には契約金額の見直しが可能になりました。しかし現場では「発注者に言いづらい」「書面が面倒」といった理由から活用されないことも多く、結果的に利益を守れない企業が目立ちます。

価格転嫁・資本性借入金・経審の最新ポイント

価格転嫁ルールで利益を守る仕組み

ここ数年で最も注目されているのが、改正建設業法によって整備された「価格転嫁ルール」です。これは、資材や労務費の高騰によって契約時点の採算が崩れることを防ぐために導入された制度で、発注者と受注者の力関係に左右されやすい中小建設業を守るための仕組みといえます。

具体的には、契約前の段階で「資材価格や労務費が変動する可能性がある」という“おそれ情報”を発注者に提示し、契約書にも「金額変更の方法」を明記することが求められます。これにより、実際に資材費が高騰した際には、発注者に協議の努力義務が課されるのです。

ただし、このルールを活かすためには「事前の情報整理」と「書面化」が欠かせません。たとえば、資材の価格動向を過去の統計や仕入れ先の見積もりから把握しておくこと、契約書に具体的な金額変更の手順を盛り込むこと、協議内容を記録に残しておくことなどが必要です。これらの準備を怠ると、制度が整っていても実務では“絵に描いた餅”になってしまいます。

現場の声を聞くと、「値上げ交渉は気まずい」「発注者から嫌われたくない」という心理的なハードルも大きいようです。しかし、資材費の上昇は自社努力ではどうにもならない外部要因です。むしろ、こうした制度を積極的に使うことが、自社を守るだけでなく、健全な建設業界全体を維持することにつながります。

資本性借入金という新しい資金調達手段

資金繰りに直結する制度として注目されているのが「資本性借入金」です。これは政府系金融機関や一部の民間銀行が取り扱っている特別な融資で、借入でありながら“資本”の一部として扱えるのが特徴です。

通常、借入金は「負債」として計上されますが、資本性借入金は自己資本とみなされるため、財務諸表の健全性が向上します。たとえば、自己資本比率が改善すれば金融機関からの信用度が上がり、追加融資や取引条件の改善につながることもあります。

さらに、国土交通省は2025年7月から、経営事項審査(経審)の評価において資本性借入金を自己資本として算入できるようにしました。これにより、X評点・Y評点といった経審スコアのアップにつながるため、公共工事の入札を目指す企業にとっては大きなメリットとなります。

ただし注意点もあります。資本性借入金は償還期間が5年以上と定められており、残り期間が5年を切ると「みなし資本」が毎年20%ずつ減少していきます。つまり、単に借りれば良いというものではなく、この期間のうちに人材強化や技術投資を行い、将来的に通常の融資や自社資金で運営できる体制を整える“出口戦略”を立てる必要があります。

現場感覚で言えば、資本性借入金は「息継ぎのための酸素ボンベ」のような存在です。一時的に財務の苦しさを和らげると同時に、その間に筋力(=経営力)をつけなければならないのです。

経営事項審査(経審)の評価が変わる

建設業者にとって、公共工事の入札参加に不可欠なのが「経営事項審査(経審)」です。経審は、経営状況や技術力を点数化する制度で、金融機関からの融資審査や取引先との信用にも直結します。

近年、国交省は「技術と経営に優れた企業の評価」を重視する方向へと舵を切っています。2025年には有識者勉強会が発足し、2026年3月に向けて中長期の建設業政策を議論している最中です。その背景には、担い手不足や資材高騰、金利上昇といった構造的な課題があります。

具体的なポイントとしては、以下のような動きがあります。

  • 自己資本の評価強化
    資本性借入金を自己資本として算入できる仕組みが導入された。
  • 財務の安定性重視
    単なる売上規模よりも、健全な財務体質を持つ企業が評価されやすくなっている。
  • 人材・技術力の評価拡大
    技能者の保有資格や建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用状況など、人材育成に関する取組が経審評価に反映されつつある。

つまり、これまでのように「売上さえあれば良い」という時代ではなく、「財務の安定」「人材の質」「制度の活用力」が総合的に問われるようになっているのです。

制度を使いこなすための第一歩

ここまで紹介した制度──価格転嫁ルール、資本性借入金、経審の最新評価ポイント──はいずれも中小建設業を支えるために整備された仕組みです。しかし、制度は知っているかどうかで大きく差がつきます。

制度を理解し、適切に活用できる企業は、金融機関との交渉でも優位に立ちやすく、資金繰りの安定につながります。一方で、「難しそう」「うちには関係ない」と放置してしまう企業は、同じ条件でも不利な状況に置かれてしまうのです。

だからこそ、経営者や後継者候補には「自社に合う制度は何か?」「どう活用すればプラスになるか?」を常に意識してもらいたいのです。特に資金繰りに課題を感じている企業にとって、これらの制度はまさに見逃せないの武器となるはずです。

明日からできる資金繰り改善のヒント

制度や仕組みを知っても、「実際に何をすればいいのか」が見えなければ動けません。ここでは中小建設業がすぐに取り組める実務的な行動を整理してみましょう。

金融機関との対話を前倒しする

借入金利の上昇局面では、金融機関に対して「受け身」になるのではなく、こちらから積極的にコミュニケーションを取ることが重要です。決算の数字をただ見せるのではなく、次の工事計画や人材育成の取り組み、経営改善の方針を伝えることが信頼につながります。金利引き上げを打診された場合も、返済能力や成長戦略を示すことで、条件緩和や借り換えの余地を広げることができます。

資金繰り表を未来志向で作る

多くの会社が資金繰り表を作成していますが、現実には「今月・来月をしのぐため」だけに使われがちです。そこで重要なのは、半年先・1年先を見据えた資金繰り表を作ることです。特に公共工事や大型案件では、入金のタイミングが読みにくいため、シミュレーションをして「資金ショートしやすい月」を把握しておくことが経営の安心につながります。

無理な受注を避ける勇気を持つ

資金不足のときほど「とにかく受注しなければ」という心理が働きます。しかし、採算割れの工事は赤字を膨らませるだけです。金融庁のハンドブックが警鐘を鳴らしているように、目先の資金繰り確保のための受注は、長期的に見れば会社の体力を削ります。「利益が確保できる仕事に集中する」姿勢が必要です。

価格転嫁ルールを現場に浸透させる

制度として整った価格転嫁ルールも、現場代理人や担当者が理解していなければ活用できません。契約前の打合せで「おそれ情報」を共有する仕組みを作る、発注者との協議内容を必ず記録に残す、といった習慣づけが欠かせません。少しの手間で大きな損失を防ぐことができます。

バックオフィスの機能を強化する

人員に限りのある中小建設業では、資材調達や契約対応を現場代理人に任せることが多くあります。しかし、資金繰りやコスト管理といった経営の血管部分を現場に丸投げしてしまうと、どうしても抜け漏れやムダが生じがちです。経理・総務部門を中心としたバックオフィスが、現場を数字で支える体制を整えることが、安定経営の基盤となります。

VE提案で利益を守る

最後に忘れてはならないのが「現場の知恵」です。過剰な仕様を抑える、作業工程を工夫する、高強度部材を採用して数量を減らす──こうしたVE(Value Engineering)提案は、発注者の理解と現場の工夫がそろって初めて実現します。現場と管理部門のコミュニケーションを密にし、利益を確保する意識を会社全体で共有することが求められます。

金利上昇時代を乗り切るために、今こそ一歩を踏み出す

ここまで、建設業を取り巻く金利上昇と資金繰りの現実、そして制度を活用した具体的な対策について整理してきました。改めて強調したいのは、「状況は待ってくれない」ということです。資材費や人件費の高騰、借入金利の上昇、担い手不足──どれも一過性ではなく、中長期にわたって続く課題です。

しかし、悲観する必要はありません。価格転嫁ルールや資本性借入金、経営事項審査の見直しといった制度は、まさに中小建設業を支援するために整備されています。これらを“知っているだけ”で終わらせず、“使いこなす”ことが、企業を一段上のステージへ押し上げてくれるはずです。

実際、金融機関との交渉も、受け身ではなく「未来の成長計画」を示す姿勢が大切です。半年先・1年先を見据えた資金繰り表を整える、赤字工事を避ける勇気を持つ、現場とバックオフィスが連携してコスト管理を徹底する──こうした積み重ねが、経営者や後継者の「経営力」として評価されます。

また、経営事項審査のスコアは単なる点数ではなく、会社の健全性を示す“経営の健康診断”です。資本性借入金の導入や人材育成への投資は、公共工事への参加機会を広げるだけでなく、金融機関や取引先からの信頼を得るうえでも欠かせない取り組みとなります。

建設業は地域のインフラを支える重要な役割を担っています。だからこそ、今後も長く持続できる経営を意識することが、従業員や地域社会にとっても大きな意味を持ちます。「資金繰りが苦しい」「制度の活用が難しい」と感じたら、専門家に相談するのも一つの選択肢です。私自身も行政書士として、制度の活用や経審対策のご相談を受けながら、現場と制度をつなぐ橋渡し役として伴走してきました。

金利上昇という逆風は確かに厳しいものです。しかし、この状況を「経営力を磨くチャンス」と捉え、まずはできることから着実に動き出すことが大切です。明日からの一歩が、数年後の経営の安定につながります。今こそ、一緒に未来の備えを始めていきましょう。