熱中症リスクと労働規制、建設業が今すぐ見直すべき3つの実務対応

熱中症リスクと労働規制、建設業が今すぐ見直すべき3つの実務対応

「35度超え」が当たり前に?現場で働く人が危ないと感じていること

「こんな暑さ、今まで経験したことがない。」

この言葉が、今夏の現場では何度も聞かれました。
気象庁の発表によれば、今年6~8月の全国平均気温は観測史上最高。東京都心では猛暑日(35度以上)が23日、連続猛暑日も10日を数え、どちらも過去最多を更新しています。

建設現場の中心には、体を張って働く職人や技能者がいます。屋外での作業が多い建設業にとって、こうした猛暑は、もはや「天気の問題」ではなく「命に関わる労働問題」です。

実際、群馬県建設業協会が前橋市内で行った調査では、7〜8月の道路工事においてWBGT値(熱中症リスクを示す指標)が「厳重警戒」を超えた時間帯が全体の8割を占めました。

現場では冷感ベストやミスト、氷水などの対策が取られていますが、40度近い気温の中での作業は、いくら対策を講じても限界があります。
そして問題は、「休ませると工期が遅れ、技能者の収入が減る」というジレンマが依然として存在していること。

さらに、昨年から始まった時間外労働の上限規制が、夏季の柔軟な働き方をさらに難しくしています。収入を守るためには働かねばならない。しかし、働けば命が危ない──そんな状況が、現場には確実に存在しています。

このままでは、命と仕事のバランスを失い、離職や業界離れを招きかねません。

そこでこの記事では、「熱中症リスク」「労働規制」「制度対応」の3つの観点から、現場を守るための実務的な見直しポイントを提案していきます。

「働けない夏」が現実に。現場から上がる悲鳴と矛盾

建設現場で今、何が起きているのか。
それは単なる「暑さ対策」の話ではありません。もっと深刻で、現場の根幹を揺るがす問題が露わになっています。

作業時間は実質5時間?「45分休憩ルール」のインパクト

たとえば、WBGT(暑さ指数)が28度を超えた場合、作業1時間ごとに45分以上の休憩が推奨されます。
これは、1日8時間労働でも実質5時間しか作業できないという計算になります。

実際、前橋市での調査では、測定された316時間のうち約8割でこの基準を超える値が記録されました。
これが「毎日」「全国的に」起きているということです。

収入が減る…だから休めないという現実

建設業の多くの技能者は、日給月給制。つまり、働いた分だけ収入になる仕組みです。
休めば当然、収入は下がる。工期が延びれば、元請からの評価も下がる。
だから、無理をしてでも現場に出る──。

これは一種の構造的な過労とも言えます。

時間外労働の上限規制が拍車をかける

昨年から建設業にも適用された時間外労働の上限規制
「働き方改革」として導入された制度ですが、この猛暑下では、逆に現場の柔軟性を奪う結果となっています。

例えば、夏場に作業時間を減らし、そのぶん秋以降に回すといった調整が制度上やりづらい。
制度と現実がズレており、それが現場にしわ寄せを生んでいるのです。

誰のための制度なのか?という疑問

本来、制度は人を守るためにあります。
しかし今、「安全のために休むと収入が減る」「工期が遅れると元請に怒られる」「制度に従うと人が辞める」といった矛盾が、技能者の健康と生活を圧迫しています。

ここで必要なのは、制度と現場の「すり合わせ」
一律のルールではなく、現場ごとの実情に合わせた柔軟な対応が求められています。

制度は敵じゃない。建設業に寄り添う「使えるルール」の見つけ方

「制度なんて、現場を知らない人が作ったものだろ」
そんな言葉が、職人の口から漏れるのも無理はありません。
たしかに、現場の肌感覚と制度の内容にギャップがあることは否定できません。

ですが、実は使い方次第で現場を助ける制度もあるのです。
ここでは、いまの建設業を取り巻く主要な制度と、それを味方にする視点を紹介します。

夏の「実作業時間減」を前提とした歩掛の見直しを

群馬県建設業協会が提案しているように、気温上昇による作業時間の減少を踏まえた「夏季用歩掛」の設定は、現実的な制度改善案のひとつです。

歩掛(ぶがかり)とは、工事の標準的な作業量や労務量を示す基準。
この基準が変われば、見積額や発注金額にも反映されるため、熱中症対策の休憩時間や人員確保にも一定の理解が得やすくなります。

行政としても、このような“現場に基づいた歩掛”を推進していくことは、今後の政策課題になるでしょう。

建設業許可制度も「守るだけ」じゃなく「支えるため」にある

たとえば、建設業許可の更新や経営事項審査(経審)なども、単なる「面倒な手続き」ではなく、企業の信用や受注力を守る制度です。

許可を適正に保ち、技術者配置や社会保険加入などの要件を維持することは、元請や官公庁との契約条件でもあり、会社を守る“看板”でもあります。

こうした制度への理解が浅いままだと、「とりあえず通せばいい」書類対応になり、後々のトラブルや審査不備につながりかねません。

時間外労働の上限規制とどう向き合うか

この制度が建設業界にとって厳しい現実であることは事実です。

しかし、完全に「制限」として受け取るのではなく、

  • 夏季は作業時間を短縮し、
  • 春・秋に集中的に稼働する
  • 工期契約も季節変動を織り込んだ設計に見直す

といった形で、制度の枠内で柔軟にスケジュールを設計することは可能です。

すでに一部の自治体や元請企業では、「猛暑期間中の工程分散」や「昼休憩2時間制」などの試行が始まっています。

制度対応=申請書類ではない

ここで大切なのは、「制度対応」は単に申請書類を通す作業ではないということ。

申請や更新、審査の一つ一つは、事業を守り、働く人を守る“裏方”の仕組みです。
だからこそ、建設業者と制度の間に立って、それを翻訳・整理し、現場の負担を軽くするのが実務支援者の役割でもあります。

命を守り、経営も守る。建設業者が今すぐ始めたい3つの実務アクション

制度が厳しくても、天気は待ってくれなくても、現場は動き続けなければならない。
それが建設業のリアルです。

だからこそ、今必要なのは「制度に振り回されないための具体的な動き方」。
ここでは、今すぐ取り組める3つの実務アクションを紹介します。

1. 「夏季短時間作業×年間スケジュール」の組み立て

猛暑日が増えている今、夏場の作業時間を前提としたスケジューリングは避けられません。

💡ポイントは、「夏は稼がず、他の季節で調整する」前提に切り替えること。

  • 春や秋に集中作業期間を設定
  • 年間工期の中に「高温期休業」や「短時間稼働期間」を盛り込む
  • 工期設定の際、元請や施主と「高温リスク」に基づく工程調整を事前協議

実際、時間外労働規制と合わせてこうした年単位の工程マネジメントは、「働き方改革の実行モデル」として評価される傾向にあります。

2. 建設業許可・経審を「制度対策」から「経営戦略」へ

建設業許可や経営事項審査(経審)は、申請して終わりではありません。
むしろその中身が、「会社としてどう見られるか」を左右します。

特に注目すべきは…

  • 経営業務管理責任者の要件を誰で維持するか
  • 技術者の専任性・常勤性をどう確保するか
  • 社会保険・財務基盤の整備ができているか

これらは経審での点数だけでなく、融資・補助金審査でも評価される指標になります。

つまり、制度を整えることは、資金調達や発注獲得の「土台」を強化することにもつながります。

3. “現場の安全”を数値で守る。熱中症対策の見える化

感覚に頼った「大丈夫そう」では、命は守れません。
そこで効果的なのが、WBGT(暑さ指数)モニタリングの導入です。

  • モバイルWBGT計を導入して、現場ごとに指数を共有
  • 指数に応じた休憩・作業ルールを見える化
  • 作業日報や安全報告書に記録し、「安全を意識している会社」としてアピール

これにより、安全対策が形骸化せず、受注先・協力会社への信頼性向上にもつながります。

また、国や自治体の補助金(熱中症対策や業務改善支援)の活用も可能です。行政書士などの専門家に相談することで、書類作成や申請もスムーズに行えます。

こうした地道な取り組みが、「命を守る現場は、信頼される現場へ」というサイクルを生みます。
そしてその信頼は、会社の未来を守る“見えない資産”になるのです。

この暑さを「他人事」にしない。今こそ現場を守る行動を始めよう

「暑さが厳しいのは、今年だけのことだろう。」

そう思いたい気持ちはわかります。でも残念ながら、気象庁の発表が示す通り、これは一時的な異常気象ではなく、これからの“新しい現実”です。

命と収入のバランスを守るために、変わるのは“今”

建設業において、体が資本であることは言うまでもありません。
だからこそ、熱中症や過労で離脱する人が増えれば、それは現場全体の生産性や信頼を失うことにつながります。

「働けば収入になる」「我慢すれば乗り切れる」という考え方は、もう限界に来ています。

今必要なのは、「休んでも安全が守られ、収入も守れる仕組み」への転換です。

一人ひとりの行動が、現場の未来を変える

この記事で紹介してきた内容は、どれも特別な知識や設備がなくても始められるものばかりです。

  • 夏季の短時間作業を前提にしたスケジュール設計
  • 経審や建設業許可を「経営の強化ツール」として使う視点
  • 暑さ指数(WBGT)を活用した安全管理の見える化

こうした一つひとつの行動が、会社を守り、仲間を守り、家族を守ることにつながります。

行政書士は、申請書だけを書く存在ではありません

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
私は千葉県市川市で、建設業を中心とした法務支援・制度対応に取り組む行政書士として活動しています。

元自衛官としての災害現場経験や、行政実務の知見をもとに、現場の感覚と制度の論理を「つなぐ」ことを使命としています。

  • 「建設業許可、取れるのかな…」
  • 「経審や更新、忘れてないかな?」
  • 「資金繰りや助成金、誰に聞いたらいい?」

そんな不安を感じたときは、ぜひ一度ご相談ください。
制度の話も、経営の話も、「わかりやすく」「寄り添って」一緒に整理していきます。