中古トラックやダンプを売ると違法?建設業と古物商の意外な関係

中古トラックやダンプを売ると違法?建設業と古物商の意外な関係

トラック処分のつもりが法律違反?見過ごされがちな日常の取引

現場でありがちな「売却」のシーン

建設業に携わっていると、現場で使わなくなった車両や機械を「そろそろ売って処分しようか」という場面に出会うことがあります。

たとえば、長年使ってきたダンプトラック。まだ走れるけれど、燃費も悪く修理費もかさむから、買い替えたい。あるいは、解体工事で出た資材や鉄骨、もう現場では使わないけれど「もったいないから買い手があれば売りたい」。そんな経験、きっと一度や二度はあるのではないでしょうか。

多くの方は「単なる売却」や「資産処分」の延長だと考えてしまいます。中古車業者や解体業者とやり取りして、その場で売ってしまえばいい——。ところが実は、こうした取引の中には「古物商許可」が必要なケースが含まれています。

「許可なんて関係ない」と思いがちな落とし穴

「中古トラックを売ったくらいで違法になるの?」
「建設業許可を持っていれば全部カバーされてるんじゃないの?」

現場の方からよく聞く疑問です。確かに、建設業許可や産廃の許可を持っていれば大抵の手続きは済んでいるという安心感があります。しかし、古物営業法という別のルールでは「一度使用された物品を、利益を得る目的で売買・交換する場合」は古物商許可が必要とされています。中古トラックやダンプ、工具や資材なども“古物”に含まれるのです。

つまり、建設業の実務に直結する「中古車両や資材の売却」で、思いがけず法令違反に触れてしまう可能性があるということ。知らなかったでは済まされないのが、この古物商の世界です。

だからこそ今、知っておきたい

建設業の経営は、ただ工事をこなすだけではなく、設備投資や資金繰り、資産管理といった視点も欠かせません。中古車両や資材の売却は、その中で資金調達の一手段にもなり得ます。
ですが「許可の有無」を理解していないと、せっかくの資金化が思わぬリスクに変わってしまうのです。

本記事では、建設業に携わる方が見落としがちな「古物商許可」との関係について解説します。現場のリアルな事例を交えつつ、制度の仕組みや取得のメリット、そして実際にどう行動すべきかを順を追って整理していきます。

使わなくなった中古車両や資材、どうしていますか?

現場でよくある“処分”のシーン

建設業に関わっていると、現場や車庫に「もう使わないけれど置きっぱなし」のトラックや機械が必ず出てきます。
例えば、長年使ったダンプ。エンジンの調子は悪いがまだ走れる、修理すれば十分使える。そうなると「売って少しでも現金化しよう」と考えるのが自然です。

同じように、解体工事で発生した鉄骨や廃材。新しい現場で使う予定はないが、リサイクル業者に引き取ってもらえばお金になる。
現場の職人や監督の頭の中には「廃棄」か「売却」しか選択肢がないのが普通でしょう。

意外に多い「古物営業」にあたるケース

しかし、ここに“盲点”があります。

  • ケース1:中古ダンプを知り合いの会社に売った
    → これは「利益目的の中古車両の販売」とみなされ、古物営業法の対象に。
  • ケース2:解体で出た資材をストックしておき、後日販売した
    → 一度使用された資材を販売した時点で古物扱い。
  • ケース3:社員が会社の備品や中古工具を、フリマアプリで販売
    → 個人の副業のつもりでも、許可がないと“無許可営業”の疑いに。

どれも「建設業なら日常的に起こり得ること」ですが、古物商許可を持たずに繰り返すと、警察の指導や罰則のリスクが生じます。

「知らなかった」では済まされない現実

実際に、ある中小の建設会社では「余った車両や資材を処分する程度だから大丈夫だろう」と軽く考えていたところ、警察署から古物営業法違反の疑いで呼び出しを受けた例があります。もちろん悪意はなくても、法律の上では「古物商許可なしでの営業行為」と判断されるのです。

つまり、現場では普通に行われている「処分」や「売却」が、法令上は“商売”として扱われてしまう。このギャップこそが、多くの建設業者が気づかないリスクなのです。

古物商許可ってそもそも何?建設業との意外なつながり

「古物」の定義は思ったより広い

「古物」と聞くと、骨董品やブランドバッグ、中古家電を思い浮かべる方が多いと思います。
ところが法律上はもっと広く、「一度使用された物品」や「使用のために取引されたことがある新品」も含まれます。
つまり、中古トラック・ダンプ・重機・工具・建設資材など、建設業の現場で日常的に扱うモノが丸ごと対象になるのです。

なぜ許可が必要になるのか?

古物営業法は「盗品の流通を防ぐ」ために作られた法律です。
「正規のルートで流通しているものか」「所有者が正しく変わったものか」を管理するために、
中古品の売買や交換を“営業として”行う場合には 古物商許可 が必要とされています。

建設業の場合、例えば——

  • 中古ダンプを継続的に販売する
  • 解体で出た資材をまとめて売る
  • 工具や備品を中古市場に流す
    これらはすべて「利益を得る目的」と見なされる可能性があります。

許可がないとどうなる?

もし古物商許可を取らずに取引を繰り返した場合、「無許可営業」とされ、
3年以下の懲役または100万円以下の罰金 という重い罰則の対象になり得ます。
「知らなかった」「うちは本業じゃない」という言い訳は通用しません。

最近の動きと注意点

近年はフリマアプリやネット販売の普及で、中古品取引のチェック体制は強化されています。
実際に、警察は「業者の副業的な中古取引」や「解体業に伴う資材販売」にも目を光らせています。
建設業界も例外ではなく、法令順守を軽視すれば取引先や元請からの信用にも影響しかねません。

まずは「うちも対象になる?」を確認しよう

こんな取引は古物商許可が必要かも

建設業者にとって、古物商の対象かどうか判断が難しい場面は少なくありません。
チェックの目安としては次のようなケースが挙げられます。

  • 中古トラックや重機を繰り返し売却する場合
  • 解体工事で出た資材を販売・再利用目的で引き渡す場合
  • 工具・発電機など備品をまとめて中古市場に出す場合
  • 社員が会社備品をフリマアプリで販売する場合

一度きりの単発処分ならグレーですが、“繰り返し”や“利益目的”と見なされると許可が必要になります。

許可を取ると安心できるシーン

逆に古物商許可を持っていれば、次のようなメリットがあります。

  • 車両・資材を安心して現金化でき、資金繰り改善にも役立つ
  • 新規事業として「リサイクル」「中古販売」に参入できる
  • 元請や取引先から「法令順守している会社」として信頼を得られる
  • SDGsや循環型社会への取り組みとしてアピールできる

許可を取っておくことで、単なるリスク回避にとどまらず「攻めの選択肢」を持てるのです。

許可取得に必要な準備

古物商許可は、所在地を管轄する警察署(生活安全課)に申請します。
主な必要書類は以下の通りです。

  • 住民票(個人)または登記事項証明書(法人)
  • 身分証明書(本籍地の市区町村役場で取得)
  • 略歴書、誓約書
  • 営業所の使用権限を証明する書類(賃貸借契約書など)

審査期間は通常40日程度。思ったより時間がかかるので、「必要になる前に」準備しておくのがおすすめです。

専門家に相談するのも有効

「建設業許可」「経営事項審査」「産廃許可」など、建設業界では複数の許認可が複雑に絡み合います。
古物商許可だけ取れば済む場合もあれば、他の制度との兼ね合いを整理した方がよい場合もあります。
そうしたときには、建設業実務に詳しい行政書士など専門家に相談するのもひとつの方法です。

中古品を扱う建設業者こそ、早めの対策が安心につながる

見落としがちなリスクを振り返る

建設業の現場では、中古トラックやダンプの売却、解体資材の処分、工具や備品の販売といったシーンが当たり前のように存在します。
しかし、その「当たり前」が古物営業法の対象になることを知らずに取引してしまえば、思わぬトラブルや罰則につながりかねません。
建設業許可や経審の準備に比べると地味に見えるかもしれませんが、古物商許可を軽視することは、会社の信用そのものを危うくする行為なのです。

許可を取ることは“守り”だけではない

古物商許可を取得すれば、リスク回避にとどまらず、次のような広がりがあります。

  • 不要資産の売却をスムーズに行い、資金繰りの改善につなげられる
  • リユース・リサイクル事業に新たに参入できる
  • 元請や金融機関に「法令遵守の会社」として信頼される
  • SDGsや循環型社会に取り組む姿勢を示せる

つまりこれは、単なる義務ではなく未来の事業戦略を支える武器にもなりえます。

行動の第一歩は小さな確認から

「うちの取引は古物商に当たるのか?」
「許可を取るべきかどうか判断できない」

そんなときは、まず取引内容を整理してみることから始めてみましょう。

そのうえで、不安があれば建設業実務に詳しい行政書士など専門家に相談してみてください。書類準備や申請の流れをスムーズに進められるだけでなく、建設業許可・経審・補助金との兼ね合いも含めてトータルでサポートを受けられるはずです。

まとめ

中古トラックやダンプの売却は、建設業者にとって決して特別なことではありません。
しかし、そこに潜む「古物商」という落とし穴を見逃さず、早めに備えることが、会社を守り、次のチャンスをつかむ第一歩です。

「知らなかった」では済まされない世界だからこそ、いま一度、自社の取引を振り返り、必要な準備を進めていきましょう。