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退職金“たった400万円”?現場の声が動かした制度改革
「うちの職人もそろそろ引退だけど、正直、退職金が少なすぎて気の毒で…」
こんな声、あなたの周りでも聞いたことはありませんか?
2024年春、建退共(建設業退職金共済制度)の退職金額が“37年間納付しても400万円に満たない”という現実に、多くの建設業関係者が改めてショックを受けました。しかも、その背景には物価高・人手不足・高齢化といった構造的な課題が絡んでおり、「このままでは若い職人が育たない」「ベテランが報われない」という声が全国で高まっています。
実際、勤労者退職金共済機構の調査では、元請の82.2%、下請の90.2%が「掛金の上乗せに前向き」という結果が出ました(※2025年5月報告)。この動きは、建設業界にとって単なる“退職金の話”ではなく、職人の確保、現場の安定、会社の未来すべてに関わる大きな転換点となり得ます。
私たちが市川市で実務支援をしている中でも、建退共の退職金水準に疑問を持ち、「この制度、本当に従業員のためになっているのか?」という相談が増えてきました。
とくに中小建設業者にとっては、毎月の掛金一つとっても経営を圧迫しかねないため、「上乗せしたい気持ちはあるが、原資がない」と悩む社長も少なくありません。
とはいえ、「制度が変わるなら、うちはどう対応すべきか」を考えないわけにはいきません。今まさに、退職金制度が建設業の“現場力”を左右する時代が来ているのです。
制度と現場のズレ──「なんでうちが負担するの?」という声の裏側
「掛金上げるのはいい。でも、結局うち(下請け)が負担するの?それはちょっと…」
この言葉、市川市内のとある設備業者の社長から出たものです。経営は決して悪くない。でも、燃料費や資材の高騰、そして急に跳ね上がった社会保険料……。現場は毎日まわしてる。それでも帳簿を開けばギリギリ。そんな中で、「日額320円→400円→800円と掛金を上げましょう」と言われても、素直に受け入れられないのは当然の感覚かもしれません。
実際、調査結果でも「800円以上の負担に前向き」と答えた元請企業は全体のわずか5%程度。
下請側では「元請けが負担してくれるなら」という条件付きでの前向き回答が目立ちました。
つまり、“制度の理想”と“現場の現実”にギャップがあるのです。
建退共は、制度上「技能者個人にひもづく」退職金ですが、実際の掛金納付は企業側が行います。そして、下請業者ほどその負担割合が重く感じられることが多い。とくに市川市のような地域密着型の工務店や中小建設業者は、元請と下請を行き来する柔軟なスタイルが多いため、線引きがあいまいな中で“どちらが負担するのか”がトラブルの種にもなりかねません。
さらに、建退共の加入・運用自体に苦手意識を持つ現場管理者も少なくありません。
- 「あれってどう管理するんだっけ?」
- 「下請けに納付お願いしたら、間違って2重に払っちゃった」
- 「キャリアアップシステムと紐づけできるのか不安」
そんな声も、相談の中で頻繁に出てきます。
つまり、制度は善意でも、“使いこなせなければ意味がない”というのが、今の中小建設業者のリアル。制度に疎遠なままでは、せっかくの退職金制度も「紙の上の制度」で終わってしまいかねないのです。
「建退共の見直し」は何が変わる?これからの制度をわかりやすく整理
「退職金が1000万円以上もらえる制度になるかも?」
そんな見出しを見て、期待と同時に「うちは関係あるのかな?」と疑問に思った方も多いはずです。
2025年春、建退共(建設業退職金共済制度)の見直しが本格的に検討されています。最大のポイントは、「複数掛金制度」の導入。つまり、現行の一律320円に上乗せして、企業ごとに掛金額を自由に選べるようにする、という内容です。
現在の制度では、日額320円を37年間払い続けても、退職金は約400万円。
他産業の水準(中小企業平均:約1,000万)と比べると、あまりにも差があるため、制度自体への不満が高まっていました。
この問題を受けて、建退共では以下のような改革案が検討されています。
✅【今後の見直しポイント】
- 複数掛金制度の導入(上乗せ型)
→ 日額400円・600円・800円など段階的な上乗せを選べる - 上乗せ基準は「能力・経験・勤続年数」などをベースに設定
→ 建設キャリアアップシステム(CCUS)との連携を想定 - 導入には法改正が必要
→ 2025年秋に最終報告が予定され、中小企業退職金共済法の改正が視野に
制度としては柔軟性が高まり、「良い人材に良い待遇を」という評価型経営がしやすくなる反面、導入には多くの準備が必要です。
たとえば、掛金を上げる場合には…
- 「どの職人にいくら上乗せするのか」
- 「原資をどう確保するのか」
- 「退職金制度の見直しが就業規則や社内制度にどう影響するのか」
といった社内調整が避けられません。
また、キャリアアップシステムと連動する場合、登録や情報管理、評価の基準づくりなど、デジタル対応や運用設計の負担も大きくなります。とくに、少人数で運営している地域密着型の会社にとっては、こうした「見えない実務負担」がボディーブローのように効いてくるのです。
でも、逆に言えば、今のうちに制度の全体像と影響を整理しておけば、“チャンス”にもなり得ます。
制度は「チャンス」にもなる──いま建設業者が取るべき3つの実践ステップ
建退共の見直しや複数掛金制度は、「負担増」という側面ばかりが強調されがちです。でも視点を変えれば、“現場の待遇改善”を武器にできるチャンスでもあります。
とくに市川市のように、地場で信頼関係を築いている中小建設業者にとっては、「しっかりした制度で職人を守っている会社」として評価を高めるきっかけにもなります。
では、実際にどのような準備・対応が必要なのでしょうか?
ここでは、制度改革に備えて中小建設業者が実践できる3つのステップをご紹介します。
✅ステップ①:「自社負担の限界」を数値で把握する
まず必要なのは、“気合”や“想い”ではなく、数字に基づく現実的な判断です。
たとえば、日額320円から400円に上乗せするだけでも、1人あたり年間2万円程度の負担増になります(出勤250日換算)。従業員が5人いれば年間10万円増です。
この数字を出すことで、「どこまでなら会社として吸収できるか」「元請にどのように説明するか」が見えてきます。
また、経営事項審査で加点評価を得るための社内制度整備とあわせて検討すれば、コストを単なる“支出”ではなく、“戦略投資”として捉えることもできます。
✅ステップ②:キャリアアップシステム(CCUS)との連携を整える
建退共の上乗せ制度では、職人の経験や資格が掛金の判断基準になります。そのため、「職人の情報をどう管理するか」が重要になってきます。
キャリアアップシステム(CCUS)との連携を進めておけば、評価・給与体系の見直し、補助金活用、公共工事の加点対策など、さまざまな“相乗効果”が期待できます。
CCUS未登録の場合でも、まずは「現場ごとの名簿をデジタル化」することから始めると、制度連携が格段に進めやすくなります。
✅ステップ③:資金調達・補助金を活用して「先に準備」する
掛金の上乗せによる支出増をカバーするには、補助金や融資を活用する視点が欠かせません。
たとえば…
- 「人材育成計画」や「福利厚生整備」を含む内容なら、小規模事業者持続化補助金
- 事業拡大と合わせて福利厚生制度を改善するなら、千葉県の中小企業支援融資制度
などが活用可能です。
当事務所でも、こうした制度変更をにらんだ資金計画のサポートを行っており、「制度に強い伴走者」としての支援体制を整えています。
制度改革は、待っていても“自動的に得する”ことはありません。
動いた人・準備した人にだけチャンスが巡ってくる。
そのチャンスを活かすための“段取り”こそが、今この時期のポイントです。
制度が変わる今こそ、“現場と未来”に向き合うチャンス
「制度って、結局、大企業の話でしょ?」
そう思われる方もいるかもしれません。
でも今回の建退共改革は、むしろ地域密着の中小建設業者こそ、先手を打つべきタイミングです。
市川市の現場でも、職人との信頼で仕事を回している工務店や設備業者が多く、待遇や福利厚生のちょっとした工夫が、離職率の低下や新しい人材確保につながっています。
そして、掛金の上乗せ制度が本格化すれば、「待遇で職人を選ぶ時代」がもっと加速するのは明らかです。
🛠️「うちは小さいから」と諦めないでください
中小企業だからこそ、小回りの利いた制度設計や、柔軟な社内ルールの構築が可能です。
- 「うちの従業員には、何円の上乗せが最適か?」
- 「元請けとの交渉で、制度導入の負担をどう分担するか?」
- 「新しい退職金制度を社内制度としてどう説明・運用するか?」
こういった話は、机上の理屈より“現場に即した設計”が求められます。
だからこそ、制度を「知っている人」と「使いこなせる人」の差が、今後どんどん大きくなるのです。
📩 まずは一度、相談してみてください
「建設業許可の更新ついでに聞きたいんだけど…」
「経審対策の一環で、退職金制度の見直しも検討したくて…」
そんなご相談が、最近は本当に増えています。
当事務所では、建設業界に特化した制度対応・資金調達支援を専門にしており、
「制度と現場の“橋渡し役”」として、経営者や現場の方と二人三脚で考えることを大切にしています。
地域密着だからこそ、無理なく続けられるやり方を一緒に考えていきましょう。
制度を“負担”ではなく“味方”にするために
- 建退共制度は今、大きな転換点を迎えている
- 上乗せ制度は、現場の待遇改善にも人材確保にもつながるチャンス
- そのためには、今から資金・制度・人材情報の整理と準備が不可欠
- 小さな一歩(ヒアリング・相談)からでも、未来は変えられる
📞市川市での相談対応・Zoom相談も可能です。
あなたの現場に合った“リアルな制度設計”、一緒に考えてみませんか?