退職金制度の見直しで「辞めない現場」がつくれる?

退職金制度の見直しで「辞めない現場」がつくれる?

「この会社で長く働きたい」と言わせるには

「うちの職人も、定年を前に不安そうでね……」
「今の若い子たちは、将来の保障がないと続かないよ」

建設業に関わる皆さんとお話ししていると、こんな声をよく耳にします。
特に千葉県市川市の中小建設業者では、人材確保や定着率の課題は避けて通れないテーマ。現場で頑張る技能者の方々にとって、「退職金制度」が“安心して働き続けられるか”を左右する要素になってきました。

そんな中、最近のニュースで話題となっているのが、建退共制度に「複数掛金」が導入される方針です。
これは、現行の掛金(320円/日)に加えて、事業主や元請けが掛金を上乗せできる仕組み。これによって、退職金の受取額を1000万円以上に引き上げる狙いがあるとされています​。

退職金制度の整備は、「福利厚生の強化」だけではありません。
人材の定着、モチベーション向上、そして会社の信頼性アップにもつながる、大きな意味を持つ取り組みです。

とはいえ、「うちの規模でもできるの?」「何から始めればいいの?」という疑問を抱える方も多いはず。
この記事では、行政書士の立場から制度の背景・メリット・具体的な整備方法をわかりやすく解説します。

「人が辞める本当の理由」―市川の現場から見えるリアル

「待遇が見えない会社には残れない」現場職人のホンネ

「今の会社、辞めようかと思ってるんですよ。先のこと、何も見えなくて…」

これは、市川市内のある塗装業者で働く30代の職人さんが、ふと漏らした言葉です。腕は確かで、若手の育成にも熱心な方でしたが、彼の口から出たのは“待遇への不安”でした。

実はこうした声、決して珍しくありません。
とくに退職金制度の整備がされていない、または曖昧な中小建設業者では、「このまま働き続けて将来どうなるんだろう?」という漠然とした不安が、離職の引き金になっているのです。

「若い子が育たない」のは、制度の壁かもしれない

市川市や周辺エリア(船橋・松戸・江戸川区)では、10〜30名規模の中小建設業者が数多く存在します​。これらの企業では、「技能実習」「特定技能」などの外国人労働者を採用しているところも多いですが、育成の途中で辞められてしまうケースも少なくありません。

理由はシンプルです。

  • 「福利厚生が不明確」
  • 「退職金があるのかないのか、よくわからない」
  • 「家族に“この会社で大丈夫?”と聞かれて答えられなかった」

制度が整っていないことが、“働き続ける決意”を阻んでいるのです。

元請けとの関係にも影響する「退職金の話」

さらに、元請け企業との関係性にも、退職金制度は少なからず影響を与えています。

「建退共にちゃんと加入してますか?」「電子申請対応できますか?」
こんなやり取りが増えてきた背景には、元請け側が社会保険・共済制度の整備状況を“発注先選定の基準”にしている実態があります。

つまり、制度の整備が遅れていると、そもそも元請けから選ばれにくくなるリスクもあるわけです。

行政書士が解説!「建退共」「中退共」の違いと制度の活かし方

「建退共」とは?技能者のための“現場特化”退職金制度

まず、建設業に特化した退職金制度として知られるのが「建退共(建設業退職金共済制度)」です。
正式には、勤労者退職金共済機構が運営する国家制度で、建設現場で働く技能者の退職金を事業主が積み立てるしくみ

  • 1日320円の掛金(1枚の証紙)を現場ごとに納付
  • 現場で働いた日数に応じて退職金が積み上がる
  • 約40年間納付しても、現状では約426万円の退職金にとどまる

最近のニュースでは、これに「複数掛金制度」が導入され、掛金を上乗せできる方針が打ち出されました。
つまり、技能者が40年働いて1000万円超の退職金を得られる可能性があるという、制度の大幅見直しが進んでいるのです。

ただし、複数掛金制度を導入するには、中小企業退職金共済法の改正や電子申請方式の採用など、時間がかかる段階もあります​​。

「中退共」とは?中小企業従業員全般を対象にした制度

一方、もうひとつの選択肢が「中退共(中小企業退職金共済制度)」。

  • 対象は建設業に限らず、中小企業で働くすべての従業員
  • 掛金は月額5,000円〜30,000円の範囲で選択可能
  • 会社単位で加入し、厚労省所管の安定した制度運営

こちらは「現場日数に応じて証紙を買う必要がない」ため、従業員の勤務管理がしやすいというメリットがあります。
建退共に比べて、一般的な就業形態の職人や事務スタッフ向けに適している場合も。

どちらを選べばいいのか?組み合わせもあり

実は、建退共と中退共は排他的な制度ではありません。職種や雇用形態によって、

  • 「現場作業員は建退共」
  • 「内勤スタッフや外国人技能者は中退共」

適材適所で組み合わせることも可能です。

このような制度設計には、加入条件の精査や会社としての意思決定が求められます。
ここで大切なのが、制度の“正しい理解”と“書類整備”を支援できる専門家の存在です。

明日から動ける!退職金制度の整備ステップと行政書士のサポート

「何から始めればいいか分からない」…そんな時にできること

退職金制度の整備は、「ウチみたいな小さな会社にはまだ早いよ」と後回しにされがちです。
ですが、段階的に進めれば、負担を抑えつつ導入可能です。そして、行政書士のサポートを受けることで、よりスムーズに制度化が進みます。

ここでは、市川市の中小建設業者を想定しながら、「今すぐできること」から順にステップをご紹介します。

現状の把握から始めよう

まずは、今の雇用体制と退職金に関する実情を整理します。

  • 現場の職人はどの制度に該当するか(建退共か中退共か)
  • 外国人労働者や事務スタッフは何人いるか
  • 給与体系・雇用契約書に退職金の記載はあるか

このような「制度整備前の棚卸し」を行うことで、無理なく導入可能な制度設計の道筋が見えてきます。

加入制度の選定と方針決定

  • 日給・現場作業員が多ければ → 建退共の導入または強化(電子申請を含む)
  • 月給・定着型のスタッフが多ければ → 中退共の加入がおすすめ

行政書士として、制度比較の解説だけでなく、労務士・社労士と連携した形で適切な設計をお手伝いできます。

書類の整備と申請支援

加入手続きの書類は、以下のような複雑な要素を含む場合があります。

  • 建退共の加入申込書、印紙の購入・貼付
  • 中退共の加入申込書、従業員ごとの掛金選定
  • 雇用契約書の整備と条項の追加(退職金規定の記載)

行政書士は、「制度に関する申請支援」や「記載内容の法令チェック」を行うことができるため、現場経営者の事務負担を大幅に軽減できます。

説明・同意・運用マニュアルづくり

制度導入後に大切なのが、従業員への丁寧な説明と、社内マニュアル化です。

  • 「なぜこの制度を導入するのか」
  • 「どうすれば退職金が増えるのか」
  • 「どこで確認できるのか(明細、マイページなど)」

こうした内容をしっかり伝えることで、従業員の信頼やモチベーションが高まり、離職防止にもつながります

未来のために、いま動こう ― あなたの会社に合った退職金制度を整える

「働く人を守る仕組み」は、会社を守る仕組みにもなる

建設業界は、これからますます人材確保が難しくなる時代を迎えます。
そんな中で、「ここで働きたい」「ここに残りたい」と思ってもらえる会社づくりができるかどうかは、制度整備にかかっています。

退職金制度は、その最たるものです。

  • 経営者の思いを“カタチ”にする仕組み
  • 社員が安心して働き続けられる基盤
  • 採用にも、元請けからの信頼にもつながる評価ポイント

最初は難しく感じるかもしれませんが、今の会社に合った無理のない方法から始められます。

「制度整備、やってみようかな」と思ったら…

「まだ先の話かも」と感じていた方も、ここまで読んでくださったなら、
きっと“第一歩を踏み出す準備”はできています。

実際に動き出すには、以下のようなアクションから始めてみてください。

📌 今すぐできることリスト

  • 雇用契約書に退職金に関する記載があるか確認する
  • 建退共や中退共のホームページを見て制度を把握する
  • 信頼できる行政書士や専門家に軽く相談してみる
  • 社内で「退職金のこと、どう思う?」と声を聞いてみる

地域とともに育つ会社へ。
制度で“守れる現場”を、あなたの手でつくりましょう。