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「元請けの言い値」が当たり前…そんな時代はもう終わり
建設現場でよく聞く「言い値だから仕方ない」
資材も人件費も上がっているのに、契約金額は昔のまま──。
建設現場ではよくある話です。
「元請けから言われた金額だから仕方ない」
「後から値上げなんて言えるわけがない」
この“元請けの言い値”が、気づかないうちに利益を削っているケースは少なくありません。
認知度の差が「交渉力の差」になる
国土交通省の調査によると、2025年1月時点で
- 完工高50億円以上の企業では 84.4% が価格転嫁ルールを認知
- 5,000万円未満の小規模事業者では わずか22.4%
この数字は、制度を知っているかどうかが交渉力に直結していることを物語っています。
同じ現場、同じ材料費でも──
制度を知っている会社は“堂々と交渉”でき、知らない会社は“我慢して飲み込む”しかない。
この差が、1件1件の積み重ねで大きな利益の差になっていくのです。
「知らなかった」で損をしないために
資材高騰や人件費の上昇は一過性のものではなく、いまや業界全体の“前提”になりつつあります。
制度を知らない=交渉の土俵にすら立てないという状況を変えるために、価格転嫁ルールを押さえることは、小さな会社ほど重要です。
💬 ひとことメモ
価格転嫁ルールは“大企業向けの仕組み”ではなく、むしろ中小の建設業者を守るための武器になる制度です。
「あとから言っても通らない」──現場でよくある損のパターン
値上げできず、自腹でかぶる下請けの現実
たとえば、ある舗装工事業者の話です。
契約を締結したときは、アスファルト価格がまだ安い時期でした。
ところが、工事着工の頃には資材が高騰。
追加分を請求しようとしたところ、元請けからはこう言われました。
「契約時の金額だから対応できません」
契約書には価格変動に関する条項がなく、泣く泣く差額を自腹で負担するしかなかったのです。
これは珍しい話ではなく、多くの下請け・中小業者が経験している現実です。
たった一言の「条項」で差がつく
一方、別の業者は違いました。
契約書にあらかじめ
「資材価格が変動した場合は、請負金額を協議のうえ変更できる」
という条項をしっかり入れていたため、資材高騰分を交渉・反映できたのです。
この差は、契約書に一言あるかどうかだけ。
作業内容も現場条件もほとんど同じでも、契約内容の差で利益が変わる。
これが実務の現場です。
データが示す「条項あり・なし」の明確な差
国土交通省の調査では、
- 契約変更条項が「全てあった」「おおむねあった」業者……60.2%
- 「ほとんどなかった」「全てなかった」業者……34.7%
つまり、価格転嫁を前提とした契約をしている会社の方が多数派になりつつあります。
裏を返せば、条項がないまま契約している会社は、それだけで不利な立場に立っているということです。
協議しなかった業者は3割近く
調査では、
- 「物価変動があったが、協議の申し出をしなかった」業者が 29.6%
- 「申し出をしたが応じてもらえなかった」業者が 10.5%
となっており、実際に「声を上げない」ケースが多いことも浮き彫りになっています。
制度を知らない、契約書に書いていない──それが、交渉の“最初の一歩”を踏み出せない理由になっているのです。
💬 ひとことメモ
値上げ交渉は「後出し」になると通らないことがほとんど。
契約の段階で土台を作っておくことが、最大の防御策になります。
価格転嫁ルールってなに?制度のキモをやさしく解説
契約段階から“交渉の土台”をつくる制度
価格転嫁ルールは、2024年12月に施行された改正建設業法によって導入されました。
この制度の目的は、資材や労務費の高騰によって建設業者が一方的に損を被らないようにすること。
つまり、契約段階から値上げ交渉の“土台”をつくるための仕組みです。
3つの基本ステップで理解する
この制度は、難しく見えてとてもシンプルです。
基本は、次の3ステップ👇
- 契約前にリスクを通知
資材や人件費の価格が変動する可能性(おそれ情報)を、元請けや発注者に伝える。 - 契約書に価格変更の方法を明記
価格が上がったときに、どういう流れで交渉・変更できるかを契約書に書いておく。 - 実際に価格が上がったら協議を申し出る
建設業者が協議を求めた場合、元請け・発注者には「誠実に協議する努力義務」が課される。
ここで重要なのは、価格変更が自動で認められるわけではないという点です。
事前の契約で「交渉できる状態」をつくっておくことが前提になります。
「努力義務」とはどういうことか
価格転嫁ルールでは、発注者側には「誠実に協議に応じる努力義務」が課されます。
これは、「必ず値上げしなければならない」という義務ではなく、「話し合いのテーブルにつくことを拒めない」という意味です。
裏を返せば、契約にその道筋が書かれていないと、テーブルにすら上がれないことになります。
ルールが「味方」になる会社と、ならない会社
この制度を活かせるかどうかは、
- 契約書に価格変動条項があるか
- リスクを事前に通知しているか
- 交渉の流れをつくっているか
で明確に分かれます。
制度を知り、契約に反映している会社は交渉の主導権を握ることができますが、知らずに「言い値」で契約している会社は、損を抱え込む可能性が高くなります。
💬 ひとことメモ
価格転嫁ルールは“法律の知識”ではなく“現場の防具”です。
契約の一言が、交渉の可否を左右します。
契約を変えれば、会社の利益は守れる
価格転嫁ルールは「契約書を整える」ことから始まる
制度を活かすための一歩は、特別な交渉術でも法的知識でもありません。
今、自社で使っている契約書を見直すこと。
たったそれだけで、交渉の余地が大きく変わります。
資材価格が上がるたびに我慢する会社と、交渉して利益を守る会社の差は、実はこの「契約書の1枚」に表れています。
標準約款を使う企業が増えている理由
国土交通省の調査によると、民間工事で元請けとして契約を行う企業のうち、
- 「民間建設工事標準請負契約約款」を準用している企業
…39.4% - 一部修正して使用している企業
……9.2%
つまり、約半数が標準約款を活用しているという結果です。
この標準約款には、資材や労務費の価格変動に対応する条項があらかじめ盛り込まれており、
特別な修正をしなくても転嫁ルールに対応できるケースも多くあります。
独自契約書のままでは交渉できないことも
一方で、独自の契約書を使っている企業も26.9%存在します。
ここに価格変動条項が含まれていなければ、制度を使って交渉することができません。
実際、「契約書に条項がないから」と交渉の入り口で断られるケースも少なくありません。
つまり、「契約の書き方」が利益を守るか、削るかを分けるカギになるのです。
見直すべき3つのポイント
契約書を見直す際は、以下の点を意識するだけでも大きな違いが生まれます👇
- 価格変動に関する条項
資材や労務費が上がった場合に、請負金額を協議のうえ変更できる旨を明記する。 - 協議の流れと期限
交渉のタイミング・方法・期限をあらかじめ決めておくことで、スムーズな対応が可能になる。 - 対象範囲の明確化
対象を資材だけに限定せず、労務費なども含めて幅広く設定しておくと、後から揉めにくい。
「先に書く」ことで交渉がしやすくなる
交渉は「あとからお願いする」形になると、どうしても弱い立場になります。
しかし、契約の段階でルールを明記しておけば、交渉のスタート地点がまったく違ってきます。
💬 ひとことメモ
契約書は“形式”ではなく“武器”。
先に書いておくことで、後の交渉が「お願い」ではなく「当然の協議」になります。
「知らなかった」では済まされない時代に
小さな会社こそ、制度を武器にできる
価格転嫁ルールは、大手ゼネコンやデベロッパーのための制度ではありません。
むしろ、資金繰りに余裕のない中小・下請け業者こそ活用すべき仕組みです。
資材や人件費の高騰は、もはや一過性ではなく、業界全体に根づいている課題。
この状況で「元請けの言い値」を受け続けるのは、じわじわと利益を削られる構図に他なりません。
制度を知るだけで、立ち位置が変わる
国交省の調査でも、価格転嫁ルールの認知度は
- 大手企業…84.4%
- 小規模企業…22.4%
この差は、情報格差であると同時に「交渉できる立場にいるかどうか」の差でもあります。
制度を知っている会社は、交渉の主導権を握ることができる。
知らない会社は、元請けの条件をそのまま飲むしかない。
──この構図は、とてもシンプルです。
まずは「今ある契約書」を見直す
大きな一歩を踏み出すために、難しいことをする必要はありません。
まずは、今の契約書をチェックするところから始めましょう。
- 価格変動に対応できる条項があるか
- 協議の流れが明記されているか
- 標準約款を活用できる体制になっているか
この小さな準備が、数十万円、数百万円という利益を守る結果につながることもあります。
専門家に相談するのも一つの手
「条項をどう入れればいいか分からない」
「標準約款の活用方法を知りたい」
そんなときは、制度や契約実務に詳しい専門家に一度相談するのも有効です。
事前の準備があるかどうかで、交渉の土俵に立てるかどうかが決まるからです。
💬 ひとことメモ
価格転嫁ルールは“知識”ではなく“防具”。
契約段階の一手が、会社を守る盾になります。
泣き寝入りから「交渉できる会社」へ
- 資材・人件費の高騰は避けられない
- 「元請けの言い値」では利益が守れない
- 契約段階で価格転嫁ルールを組み込むことで交渉力が変わる
小さな会社こそ、この制度を味方につけるべきです。
泣き寝入りする会社になるのか、交渉できる会社になるのか──その差は、契約書の一言から始まります。