「公共は7割、民間は半数未満」──建設現場の“週休2日格差”が示す次の経営課題とは?

「公共は7割、民間は半数未満」──建設現場の“週休2日格差”が示す次の経営課題とは?

休める現場・休めない現場――その差はどこから生まれるのか

2024年度の全国建設業協会の調査では、「4週8休(週休2日)」を実現している現場は、公共土木で69.6%に達した一方、民間建築では48.3%にとどまりました。
同じ建設業でも、発注者の違いによってここまで差が出るのはなぜでしょうか。

公共工事では、国や自治体が「週休2日推進工事」の取り組みを進めており、発注段階から「休める前提」のスケジュールが組まれるケースが増えています。
一方、民間工事は発注者の意識やコスト感に左右されやすく、休日を確保しづらい構造が残っています。
結果として、現場の労働時間や人材定着率にも格差が生じているのが現実です。

実際、同調査では「残業月15時間未満」が69.5%と、多くの企業で働き方改革が進む一方で、「人手不足」や「工期の圧迫」を感じる企業も半数を超えています。
つまり、「休みを取る」ことがゴールではなく、休んでも現場が回る体制づくりこそが次の課題といえます。

現場を支える経営者・監督者にとって、「週休2日が実現できるかどうか」は、もはや単なる労務管理ではありません。
「会社としての競争力」を左右する要素になりつつあります。
若手の定着、人材確保、経営事項審査(経審)への影響――すべてがつながっています。

進む公共工事、立ち止まる民間工事――「週休2日」導入の壁

公共工事は制度が後押し、休める前提で動く現場

公共工事の現場では、週休2日制が着実に定着しつつあります。
背景には、国や自治体が進める「週休2日推進工事」の仕組みがあります。
これは、契約段階から休日を確保できる工程を前提とし、発注者・受注者の双方が“休むことを前提”に工期を組む制度です。
結果として、現場のスケジュールに余裕が生まれ、休日取得率も高まってきました。

また、公共工事では週休2日を確保している企業に対する評価や加点措置も少しずつ整備されています。
「休みを取っても品質を保てる企業」が評価される仕組みが整ってきたとも言えます。
国土交通省が掲げる「担い手三法」の方向性とも一致しており、働きやすい環境を整備できる企業ほど、
公共工事の受注面でも信頼を得やすくなっています。

民間工事では休みが削られる現実

一方で、民間工事の現場は状況が異なります。
発注者の多くは工期短縮やコスト削減を優先し、休日を工程に組み込む余地がほとんどないケースが多いのです。
「少しでも早く引き渡したい」「追加工事にも即対応してほしい」といった要望に応えるうちに、休日が後回しになってしまう構造が続いています。

中小規模の工務店や専門工事業者では、人員の余裕がなく、代わりの人を確保できないまま作業を続けることも珍しくありません。
特に下請構造の中で動く企業ほど、スケジュールの主導権を握れず、“休めない現場”になりやすいのです。

それでも、2024年4月からは時間外労働の上限規制が建設業にも全面適用され、「長時間労働を前提とした工程」は法的にも通用しなくなりました。
現場の感覚としては「もう無理がきかない」段階に来ています。
つまり、これまで通りの働き方では、法令にも人員確保にも対応できないということです。

休みを確保できる会社が選ばれていく

民間工事の現場で週休2日を実現するには、単に休日を増やすだけでなく、仕事の流れそのものを見直す発想が求められます。
たとえば、

  • 工期設定の段階で休日を織り込む
  • 現場ごとに「休みのルール」を文書化し、関係者間で共有する
  • 職人や協力会社とも協働し、無理のない工程を組む

といった小さな工夫を積み重ねることで、休みを確保する道が見えてきます。

また、現場で働く若手や職人の多くが「休めるかどうか」を職場選びの基準にしています。
休みの取りやすさは、給与額以上に“働く環境の魅力”として受け止められています。
つまり、休日の確保は採用力・定着率の向上につながる経営施策でもあるのです。

「忙しいから仕方ない」を超えて

週休2日を導入できない理由としてよく聞かれるのが「人がいない」「納期が厳しい」「取引先が理解してくれない」といった声です。
しかし、これらは多くの企業が抱える共通の悩みであり、
一歩ずつ改善を積み重ねている企業も確実に増えています。

たとえば、公共工事で得た週休2日のノウハウを民間案件にも転用する、あるいは工程管理ソフトやICT施工を活用して効率化を進めるなど、工夫次第で「休みを守る仕組み」をつくることは可能です。

「休める現場」は偶然ではなく、意識と仕組みの結果です。
この点で、週休2日への取り組みは、単なる制度対応ではなく、企業の姿勢そのものを映す鏡と言えるでしょう。

制度と評価――“週休2日”は経営力の証明になる

経審の評価項目にもつながる「働き方」の整備

週休2日への取り組みは、単なる社内方針ではなく、企業の経営評価にも関わる“数字”として表れるようになってきました。
その代表が経営事項審査(経審)です。

経審では、「社会性等(労働福祉の状況)」という項目の中で、社会保険の加入や雇用管理、健康経営、時間外労働削減などの状況が評価されます。
つまり、働きやすい環境づくりに積極的な企業は、公共工事の入札などで有利に評価される可能性があるのです。

週休2日を確保している企業は、発注者から見ても「計画的に現場を運営できる会社」と映ります。
反対に、休日が十分に取れない企業は、工期管理や安全面でも不安を抱かれることが少なくありません。
こうした差が、今後は受注の有無や工事の評価にも直結していくと考えられます。

公共工事では「休める工程表」が条件になりつつある

国土交通省は、建設業の働き方改革を進める一環として、公共事業で「週休2日推進工事」を段階的に拡大しています。
この制度では、契約時点で休日を織り込んだ工程表の作成を求め、休日確保に伴う経費や工期の調整も認めています。

また、自治体によっては、週休2日を導入した企業に対して発注評価での加点措置や工期延長の柔軟対応を行うケースも増えています。
このような動きは、「休みを取ること」が企業の評価項目に組み込まれてきている証拠です。
いわば、働き方の改善が信用の証明になる時代が始まったといえるでしょう。

民間工事でも「契約段階で休日を意識」する流れへ

とはいえ、民間工事では法的な枠組みや評価制度が整っていないため、企業側が自発的に動く必要があります。
まず取り組みやすいのは、契約・見積の段階で休日を前提とした工程を明示することです。
「週休2日を確保するための工期設定」として説明すれば、発注者との認識を合わせやすく、後のトラブル防止にもつながります。

また、協力会社との打ち合わせでも、「休みのルール」を共通認識として持つことが大切です。
全員が同じ方向を向いて工程を組むことで、結果的に現場全体の効率が上がり、残業や休日出勤を減らすことができます。

さらに、週休2日導入を社内外に発信することも効果的です。
たとえば、自社ホームページや求人票、経審の資料などで「週休2日実施」「働きやすい職場づくりを推進」と明記すれば、求職者や取引先に対して“誠実に現場を運営している会社”という印象を与えられます。

休める現場こそが「強い会社」をつくる

建設業では、技術力や価格競争力だけでなく、「人を守れる体制」も経営力の一部として問われる時代になりました。
週休2日の確保は、職員や職人の健康を守るだけでなく、企業としての持続性を高める取り組みでもあります。

若手が入らない、ベテランが疲弊して辞める――こうした負の連鎖を断ち切るためには、「休める会社」を本気でつくることが欠かせません。

経営面から見ても、休日確保は生産性の向上につながります。
無理な長時間労働を減らすことで、ミスや事故のリスクが下がり、結果的に品質と顧客満足度が上がる。
休みを取ることが“経営の安定化”と結びつく流れが、今まさに業界全体で始まっています。

今から始める“週休2日対応”──中小建設業ができる3つの実践策

1. 工期と休日を「見える化」する工程管理の見直し

まず最初に取り組みたいのが、工程表の見直しです。
週休2日を実現するためには、工期内で休日を前提としたスケジュールを組むことが欠かせません。
従来のように「休日を取れたら取る」ではなく、最初から「休む日を工程に組み込む」考え方へ切り替えることが第一歩です。

たとえば、各現場の着工前ミーティングで、「週に2日は原則として作業を止める」と決めておく。
それを工程表に明記し、関係する協力会社とも共有しておくことで、自然と“休みを守る文化”が浸透していきます。

最近では、クラウド型の工程管理ツールや勤怠アプリを使えば、作業日・休日・残業時間などを可視化し、工程全体を調整しやすくなります。
紙ベースの管理からデジタルへ切り替えるだけでも、「休める計画」への意識が高まる効果があります。

2. 協力会社との“休み方のルール”を整える

週休2日を進める上で最も重要なのは、協力会社との連携です。
自社だけが休みを設けても、下請け・専門工事業者が動いていれば現場は止まりません。
つまり、「全員で休む」体制づくりが必要なのです。

たとえば、元請企業が中心となって「休日カレンダー」を設定し、協力会社にも同じスケジュールを共有する方法があります。
あるいは、繁忙期と閑散期を見据え、月単位で休日調整を行う“現場単位のルール”を設けるのも有効です。

また、休暇確保を支援する制度として、自治体や建設業団体が提供する「週休2日推進モデル工事」や補助金制度を活用する方法もあります。
こうした制度を取り入れれば、発注者への理解も得やすく、協力会社にも「休んでいい」という安心感を広げることができます。

休みを守る仕組みを一社で完結させるのは難しいですが、取引先・下請・職人を含めたチーム全体で取り組む意識を持つことで、現場のムードは確実に変わっていきます。

3. 採用・教育の段階から「休める会社」を打ち出す

週休2日は、現場改善だけでなく、採用や人材定着の戦略にも直結します。
求人票やホームページに「完全週休2日」「休日取得率○%」などを明示することで、応募者に対して安心感を与えられます。
特に若手世代は「収入」よりも「働きやすさ」を重視する傾向が強く、休日がしっかり取れる職場は、それだけで魅力的に映ります。

また、社内教育でも「休みを取ることは悪ではない」という意識を共有することが欠かせません。
現場監督や職長が率先して休みを取り、チームで業務を引き継ぐ体制を整えることで、属人的な働き方から“分担して支え合う現場”へと変わっていきます。

「制度を使いこなす」ことが中小企業の強みになる

中小建設業では、大企業のように人員を多く抱えることは難しいかもしれません。
しかし、小回りが利く分だけ、制度や補助金を柔軟に活用できます。
たとえば、

  • 働き方改革推進支援助成金(厚生労働省)
  • 建設キャリアアップシステム(CCUS)活用による労務管理効率化
  • 週休2日推進モデル工事の優先参加

こうした取り組みを組み合わせることで、
「休める会社=選ばれる会社」というブランドを築くことができます。

週休2日の実現は、単なる休暇制度の整備ではなく、会社全体の信頼性と持続力を高める経営戦略そのものです。
制度を理解し、自社に合う形で取り入れていくことが、これからの建設業経営者に求められる姿勢といえるでしょう。

“休みを守ること”が未来の利益を生む理由

「休める現場」は信頼の証になる

建設業の現場は、長年「休みが少なくても仕方がない」とされてきました。
しかし、時代は確実に変わりつつあります。
国の方針、法改正、そして若い世代の価値観――そのすべてが「休めること」を企業の信頼やブランドの一部として見ています。

公共工事で7割が「4週8休」を実現する一方、民間工事ではまだ半数に届かない。
この差は、制度の有無だけでなく、会社の姿勢の差でもあります。
休みを確保しながらも、工期や品質を守り、社員の定着率を上げている企業も増えています。
「休める現場」を実現できる企業は、結果的に事故もクレームも減り、利益率も安定する傾向が見られます。

週休2日は“負担”ではなく、むしろ“利益を生み出す投資”です。
人が長く働ける環境を整えることこそ、今後の経営を左右する最大の戦略と言えるでしょう。

経営の軸を「人」に戻すと見えるもの

現場の生産性を上げることはもちろん大切ですが、それ以上に重要なのは、人が安心して働ける環境をどう守るかです。
労働時間を減らすことは目的ではなく、「一人ひとりが力を発揮できる職場をつくる」という手段でもあります。

たとえば、

  • 朝礼で「今週はここで休みを取る」と明言する
  • 上司が率先して休む
  • 現場全体で「お互い様」で支え合う雰囲気をつくる

こうした日々の積み重ねが、制度よりも大きな力を発揮します。
現場の空気が変われば、社員の意識も変わり、最終的にはお客様の満足度にもつながります。

つまり、週休2日制は単なる“労務管理の話”ではなく、経営理念を現場で体現するプロジェクトなのです。

「いま」から動くための小さな一歩

完璧な制度設計を目指す必要はありません。
まずはできる範囲から始めることが大切です。

  • 工程表に「休む日」を入れる
  • 協力会社と休日ルールを話し合う
  • 現場ミーティングで「週休2日を意識した工程」を共有する

ほんの少しの見直しでも、働く人の意識は変わります。
行政や業界団体の支援制度も積極的に利用して、「休みを取れる環境づくり」=「経営改善」と捉える発想を持ちましょう。

そして、週休2日の取り組みを「経審」や「補助金」「入札資格」などに結びつければ、会社全体の信用力を高めるチャンスにもなります。
休むことを“守りの姿勢”ではなく、“攻めの経営”として捉えること。
それが、これからの中小建設業に求められる考え方です。

行政書士として、できる伴走支援

週休2日対応や経審、補助金制度などは、現場だけでは対応が難しいこともあります。
そうしたときは、制度や書類の整理を専門に扱う専門家――たとえば行政書士――が「現場と制度をつなぐ橋渡し役」としてお手伝いできます。

工期延長や就業規則の見直し、経審加点に向けた書類整備など、制度を味方につけて経営を強化する支援も可能です。
無理をせず、必要な部分を少しずつ整えていくことが、長く続く企業をつくる第一歩になります。

おわりに

週休2日は、単なる「休み方改革」ではなく、建設業の未来を守るための経営改革です。
人が集まり、人が育ち、人が誇れる現場をつくること。
それが、最も確実で持続的な利益につながります。

「うちはまだ早い」と感じている今こそ、始めるチャンスです。
今日の小さな一歩が、数年後の信頼と成果を生み出すことを忘れずに、それぞれの現場から、静かに動き出していきましょう。