再雇用制度が建設業を変える?出産・育児で退職した女性社員の復帰と経営事項審査への関わり

再雇用制度が建設業を変える?出産・育児で退職した女性社員の復帰と経営事項審査への関わり

現場から聞こえる「人が足りない」の声にどう応えるか

建設業界で働く方なら、「人が足りない」という言葉を耳にしない日はないのではないでしょうか。熟練の職人が高齢化し、若手の入職者が思うように増えないなかで、現場は常に人手不足と隣り合わせです。そんな状況で見過ごされがちなのが、一度は会社を支えながらも、出産や育児、配偶者の転勤、介護などを理由に退職した女性社員の存在です。

経理や総務、労務管理といった会社の根幹を支える業務を担っていた女性社員が辞めてしまうと、代わりを探すのは容易ではありません。それでも復帰の道が限られていたため、多くの企業は「戻ってきてほしいのに戻ってもらえない」というジレンマを抱えてきました。

しかし、最近の調査では状況が少しずつ変わりつつあります。日本建設業連合会の調べによれば、出産や育児を理由に退職した女性社員の再雇用制度を整備している企業は全体の34.8%にのぼり、さらに「制度はないが個別対応で復帰を認めている」と答えた企業も27%ありました。つまり、半数を超える企業が何らかの形で女性社員の復帰を支援していることになります。

こうした動きは単なる人材確保策にとどまりません。実は、建設業の経営に直結する「経営事項審査(経審)」にも関わってきます。経審には「労働福祉の状況」や「雇用環境の改善」に関する評価項目が設けられており、再雇用制度や多様な働き方を整えることが、企業の点数アップや公共工事の入札参加資格にプラスとなる可能性があるのです。

「人手不足をどう解消するか」「経審の点数を少しでも上げたい」――どちらも多くの経営者が頭を悩ませる課題です。その両方にアプローチできるのが、女性社員の再雇用制度の整備です。働く場をもう一度提供することは、社員本人にとっても会社にとっても大きなメリットになります。

今後、建設業界が持続的に発展していくためには、資格や経験を持ちながら退職を余儀なくされた人材を、もう一度現場に迎え入れる仕組みが不可欠です。再雇用制度は、現場の声に応えるだけでなく、企業の経営基盤を強くする大切な一手といえるでしょう。

なぜ女性社員は戻りにくいのか

「出産で退職した事務担当が、そのまま戻ってこなかった」――これは決して珍しい話ではありません。建設業は男性比率が高い業界である一方、女性社員は総務や経理、労務管理といった事務部門で重要な役割を担うことが多く、退職によって失われる知識や経験は想像以上に大きなものです。それでも復帰が進みにくい背景には、いくつかの理由があります。

長時間労働と柔軟性の不足

建設業は工期や現場の進行状況に左右されるため、定時で帰ることが難しい場面が少なくありません。子育てや介護を抱える社員にとって、残業や休日出勤が前提となる職場環境は復帰への高いハードルになります。

制度はあっても「使いにくい」という現実

最近は「育児短時間勤務」や「時間単位の有給休暇」といった制度を設ける企業が増えています。しかし現場では「業務が回らない」「周囲の理解が追いつかない」といった声も多く、制度が形骸化してしまうケースがあります。

ブランクによる知識の壁

数年間のブランクがあると、その間の法改正や制度変更に追いつけない不安が生じます。特に経営事項審査や建設業許可の実務に携わっていた社員にとって、「もう一度勉強し直さないと…」という心理的負担は大きな障壁です。

企業にとっても大きな損失

実務を熟知した人材を失うことで、採用・育成のコストが増し、人材不足に拍車がかかります。再雇用制度を整備せずに人材流出を放置することは、企業経営にとって大きなリスクといえるでしょう。

戻りやすい仕組みづくりが不可欠

だからこそ今後の建設業界には、女性社員が戻りやすい仕組みを整えることが求められています。再雇用制度の導入はもちろん、研修や柔軟な働き方の工夫を組み合わせることで、人手不足と経営課題の両方に対応する道が見えてくるのです。

再雇用制度と建設業許可・経審への意外なつながり

女性社員の復帰を後押しする再雇用制度は、単に「人材不足を補う仕組み」と考えられがちですが、実は建設業許可や経営事項審査(経審)の評価にも関わる制度です。ここでは、そのポイントをわかりやすく整理してみます。

再雇用制度とは?

再雇用制度とは、出産・育児、配偶者の転勤、介護などを理由に一度退職した社員を、一定の条件で再び雇用する仕組みのことです。日建連の調査によると、導入している企業は会員の約3割強。さらに個別対応を含めると5割以上の企業が復帰支援を行っています。

「辞めたら終わり」ではなく「戻れる道がある」と示すことで、人材流出を防ぎ、安心して働き続けられる職場環境を作ることができます。

制度が経営事項審査にプラスになる理由

経審では、「労働福祉の状況」や「雇用環境の改善」が評価項目として含まれています。具体的には、以下のような取組みが加点対象になり得ます。

  • 育児短時間勤務や時間単位の有給制度
  • 子どもの看護休暇やリバイバル休暇(積立年休の活用)
  • 配偶者の海外赴任・留学に帯同するための休職制度
  • 女性活躍推進や多様な働き方に関する認定取得(えるぼし認定など)

再雇用制度も、こうした流れの中で「雇用環境を改善する取組み」として高く評価される可能性があります。結果として、公共工事の入札で有利に働くケースも出てきます。

建設業許可との関わり

建設業許可自体には直接「再雇用制度を設けること」という条件はありません。ただし、許可業者として安定的に事業を継続していくためには、人材確保と雇用環境の改善が不可欠です。経理や労務担当の退職によって許可申請や経審対応が滞るリスクを考えると、再雇用制度は「許可を維持するための実務支援」ともいえるのです。

制度導入のハードルと工夫

もちろん「制度を作ればすぐに解決」というわけではありません。制度を整えても実際には利用されなかったり、現場の理解が進まなかったりすることもあります。そのため、導入にあたっては次のような工夫が効果的です。

  • 現場と事務の役割分担を明確にする
    短時間勤務でも成果が出せるよう業務を整理する
  • ITツールを活用する
    勤怠管理やリモート対応を可能にすることで柔軟性を高める
  • 研修を組み込む
    ブランクを埋める研修を定期的に実施し、不安を軽減する

再雇用制度は、人材不足に悩む中小建設業にとって「経営改善」と「制度評価」の両方に効く一石二鳥の仕組みです。制度そのものはシンプルでも、活かし方次第で大きな成果をもたらします。

今からできる!再雇用制度を活かす具体的なステップ

「制度があることは分かった。でも、うちの会社で何をすればいいのか?」――そう感じる経営者や現場責任者も多いはずです。ここからは、実際に再雇用制度を活用し、人材不足解消や経営強化につなげるための具体的な行動ステップを整理します。

1. まずは社内の「眠れる人材」を洗い出す

最初のステップは「過去に退職した社員」をリストアップすることです。経理や労務管理を担当していた人材は特に貴重で、会社の事情をよく理解しているため、再教育のコストも低く済みます。社内資料や古い名簿を見返してみると、意外な人材が見つかることもあります。

2. 就労条件を柔軟に設計する

次に重要なのは「戻りやすい条件」を整えることです。

  • 育児中の社員なら、短時間勤務や在宅勤務の選択肢を設ける
  • 介護中の社員には、フレックスタイム制度や特別休暇を用意する
  • 配偶者の転勤で退職した社員には、リモートで対応できる業務を割り当てる

小さな工夫でも「働けるかもしれない」と思ってもらえるきっかけになります。

3. 復帰支援のための研修やOJTを準備する

ブランクがある人材にとって一番の不安は「ついていけるかどうか」です。
そこで…

  • 法改正や経審制度の最新情報をまとめた簡単な研修
  • 経理ソフトや現場管理システムの操作説明
  • 社員同士の交流を兼ねたOJTの場

これらを用意することで、安心して復帰できる環境が整います。

4. 制度や取り組みを見える化する

制度を整えても、社員に知られていなければ意味がありません。就業規則に明記するだけでなく、社内ミーティングや掲示板で共有し、活用事例を紹介すると「自分も使えるんだ」と理解が広がります。さらに、外部に発信することで「働きやすい会社」という評価が高まり、採用活動にもプラスとなります。

5. 行政や専門家の支援をうまく使う

再雇用制度や雇用環境改善に取り組む企業は、補助金や助成金の対象となることがあります。例えば「両立支援助成金」や「人材確保等支援助成金」などです。また、建設業許可や経審との関係を整理するには、制度に詳しい専門家(行政書士など)に相談するのも有効です。

厚生労働省が管轄する 助成金の申請手続きは、法律により 社会保険労務士の独占業務と定められています。そのため、当事務所で対応することはできませんが、 提携している社会保険労務士事務所と連携して制度をご案内 することは可能です。

人材不足を前に「新しい人を雇う」だけでなく、「一度辞めた人をもう一度迎え入れる」という発想は、コストを抑えつつ経験豊富な人材を確保する現実的な解決策です。小さな取り組みでも、現場にとっては大きな助けとなり、経営にも確かなプラスをもたらします。

人材を「つなぎ直す」ことが未来の経営を強くする

建設業界が抱える人材不足は、今後ますます深刻化すると言われています。高齢化、若手不足、そして出産・育児や介護などを理由とした離職――これらは一社だけでは解決できない大きな課題です。しかし、だからこそ企業ごとにできる一歩が重要になってきます。

今回ご紹介した「再雇用制度」は、単なる制度づくりではありません。一度会社を離れた社員との縁をつなぎ直し、もう一度戦力として迎え入れる取り組みです。それは、社員本人の生活を支えるだけでなく、会社にとっても即戦力の人材を取り戻す大きなチャンスになります。

さらに、この取り組みは経営事項審査の評価や公共工事入札の加点にもつながる可能性があり、経営面でのプラス効果も期待できます。つまり、現場と制度の両面から会社を強くする実務支援の一つといえるのです。

もちろん、制度を作っただけでは機能しません。復帰しやすい勤務条件を整え、ブランクを埋める研修やOJTを用意し、社員に広く周知することが不可欠です。最初は小さな工夫でも構いません。「戻れる場がある」と伝わるだけで、人材流出を防ぐきっかけになります。

もし「自社でどう整えればいいのか分からない」「経審や助成金との関係を知りたい」と感じる場合には、制度に詳しい専門家へ相談するのも有効です。現場の実情と制度の仕組みを橋渡しできる存在にサポートを得れば、無理なく実行に移すことができます。

人材不足に悩む建設業にとって、再雇用制度は単なる人集めではなく、未来の経営を支える大切な資産づくりです。
これからの経営戦略に、ぜひ「人をつなぎ直す仕組み」を取り入れてみてください。