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外国人材の受け入れルールが大きく変わろうとしている
「うちも、もう何年も若い職人が入ってこない…」
「求人を出しても応募ゼロ。結局、外国人の子たちが現場を支えてくれている」
そんな声を、建設業の経営者や現場監督から聞くことが増えました。
人手不足は待ったなしの課題であり、特に中小の建設会社にとっては「外国人材の確保・育成」が経営の生命線になりつつあります。
ところが今、その外国人材の受け入れルールが大きく変わろうとしています。
2027年度からの開始が有力視されている「育成就労制度」では、転籍(勤め先の変更)の制限を2年とする案や、昇給率・日本語能力の条件化など、現場にも経営にも直結する論点が検討されています。
さらに、既に運用されている「特定技能制度」においても、在籍型出向の可否など柔軟な働き方に関する見直しが進んでいます。
制度変更は、単なる“お役所の話”ではありません。
建設業許可の維持や経営事項審査(経審)の評価、ひいては入札や資金調達にも波及する可能性があります。
特に、外国人材が定着するかどうかは、昇給制度や教育体制といった「会社の仕組み作り」にも関わるため、放置すれば経営基盤そのものが揺らぐ恐れがあります。
この記事では、制度改正の最新情報と、現場の経営者が押さえるべきポイントをわかりやすく整理します。
現場の困りごとと制度の動きをつなぎながら、建設業許可や経審にも役立つ実務的な視点でお届けします。
採用しても定着しない…現場が抱える“見えない壁”
「せっかく育てても、1年半くらいで辞めてしまう」
「賃金の話になると急に険しい顔になる」
「図面や安全書類の説明が、最後までうまく伝わらない」
これは、私がこれまで支援してきた中小建設会社の経営者や現場監督が、外国人材についてよく口にする悩みです。
人手不足を補うために採用しても、転籍や離職で人が抜ける。そのたびに現場が混乱し、採用・教育のコストも積み重なります。
特に、制度上の「転籍制限」が短い場合、職人側はより高い賃金や条件の良い会社に移る動きが加速します。
もちろん、それ自体は悪いことではありませんが、中小企業にとっては「せっかく投資した育成期間が回収できない」という現実的な痛手になります。
さらに、日本語能力の壁も深刻です。
例えば、昇給や評価の基準、安全管理のルール、契約条件の説明などは、細かなニュアンスを含むため、日常会話レベルでは誤解が生じやすい。
現場では「まあ何とか通じているだろう」と思っていても、実は肝心な部分が伝わっていないケースもあります。
そしてもう一つ、制度と現場の温度差も課題です。
制度改正は「外国人のキャリアアップ」や「待遇改善」を掲げますが、それを実現するための賃金原資や教育体制をどう確保するのかは、各社に委ねられます。
資金繰りに余裕のない会社では、好条件を提示すること自体が難しく、結果的に人材の流出が止まらないという悪循環に陥ります。
こうした現実があるからこそ、制度改正の動きを「ただのニュース」として眺めるのではなく、自社の採用・教育・給与制度と結びつけて考える必要があります。
制度改正で何が変わる?押さえておきたい3つのポイント
2027年度から始まる「育成就労制度」や、見直しが進む「特定技能制度」。
ニュースでは抽象的に報じられますが、実務に関わるポイントは大きく3つに分けられます。
1. 転籍制限「2年」の是非と昇給率の設定
これまで技能実習や特定技能の中では、転籍(就職先の変更)の制限期間や条件が制度ごとに異なっていました。
今回の議論では、育成就労制度で「2年間は転籍できない」とする案が有力視されています(最終決定は今後の法改正や政省令で確定)。
この背景には「長く働くからこそ、企業が安心して育成に投資できる」という狙いがあります。
ただし、転籍制限を設ける場合は昇給率をどう設定するかもセットで議論されています。
例えば「毎年一定割合以上昇給させる」といったルール案が検討されており(%など具体的数値は未定)、これが実現すれば、採用時の賃金設計や原価計算にも影響します。
これは経営事項審査(経審)の「労働福祉の状況」評価にも間接的に関わるため、制度が固まる前から試算しておく価値があります。
2. 日本語能力の基準化
日本語能力については、日常会話レベルより少し下の「A1水準」を最低条件にするかが検討されています。
ただし、建設業など安全管理が重視される分野では、より高い水準が求められる可能性もあります。
A1は「簡単な自己紹介や買い物、道案内などができる」レベルですが、現場で必要な安全指示や契約条件の理解には不十分な場合も多いです。
企業としては、採用前後の日本語教育や通訳体制の整備が求められ、これがコストにも直結します。
3. 協議会加入義務や在籍型出向の拡大
育成就労制度では、企業が建設分野の協議会に加入する義務を課すかどうかも論点です。
協議会に加入すると、情報共有や研修機会は増えますが(義務化されるかは現時点で未定)、会費や参加負担も発生します。
一方、特定技能制度では「在籍型出向」を認めるかが注目ポイントで、一部地域・業種で試行的に導入する案も出ています。
これは、雇用契約を維持したまま他社で働く仕組みで、スキルアップや繁忙期の応援など柔軟な働き方が可能になります。
ただし、雇用の安定性や責任範囲が不明確にならないよう、モデル契約やルール整備が必要です。
こうした制度改正は、採用・育成・給与・契約の全てに影響します。
特に建設業許可や経営事項審査を意識する企業にとっては、制度対応を怠ると「人材が確保できない」だけでなく「入札で不利になる」リスクもあります。
第4章 今からできる準備で制度改正を“追い風”に変える
制度が変わると聞くと、「また書類や手続きが増えるのか…」と感じる方も多いでしょう。
しかし、今回の育成就労制度や特定技能制度の見直しは、うまく準備すれば人材の定着率向上や経営事項審査(経審)での評価アップにもつながります。
ここでは、今から取り組める4つの準備をご紹介します。
1. 昇給・評価制度の見直し
転籍制限と昇給率がリンクする可能性があるため、給与テーブルや昇給のルールを早めに整えておくことが重要です。
「年〇%昇給」の条件を満たすために、技能評価と連動した給与体系を作れば、経審の「労働福祉の状況」評価も改善しやすくなります。
2. 日本語教育・通訳体制の強化
A1レベルから現場に必要な水準(安全指示や契約条件を理解できるレベル)まで引き上げるには、社内研修や外部講座の活用が有効です。
最近はオンライン日本語教育サービスも多く、補助金対象になる場合もあります。
教育体制の有無は、今後の制度改正でも評価項目になりやすい分野です。
3. キャリアアップシステム(CCUS)の活用
技能実習や特定技能と同様に、育成就労制度でもCCUSの登録や活用が推奨される流れです。
資格・就業日数・職長経験などを記録しておけば、賃金の根拠や昇進の判断にも使えますし、経審でも加点要素となります。
4. 資金調達支援とセットで人材投資を計画
昇給・教育・福利厚生など人材関連の投資は、一度に行うと資金繰りを圧迫します。
そこで、補助金や助成金を組み合わせて段階的に導入する方法がおすすめです。
例えば「人材開発支援助成金」や「業務改善助成金」は、昇給や教育投資と相性が良い制度です。
経営計画と一緒に資金調達の戦略を立てることで、無理なく制度対応を進められます。
※厚生労働省が管轄する 助成金の申請手続きは、法律により 社会保険労務士の独占業務と定められています。そのため、当事務所で対応することはできませんが、 提携している社会保険労務士事務所と連携して制度をご案内 することは可能です。
制度改正は「対応が早い会社」ほど有利になります。
特に建設業許可や経審を視野に入れている企業にとっては、人材制度の整備そのものが競争力を高める武器になります。
制度対応は“早い者勝ち”―今こそ動き出すとき
外国人材の受け入れ制度は、ここ数年で大きく変わろうとしています。
育成就労制度の転籍制限や昇給率、日本語要件、協議会加入義務、特定技能の在籍型出向など(いずれも現時点では案や検討中の項目が多いですが)…。
これらは、採用現場の話にとどまらず、経営事項審査や資金調達、入札の競争力にまで影響する可能性があります。
制度が完全に固まるまで待つ手もありますが、変化に追われてから動き出すと、採用や教育、給与体系の整備に時間がかかり、人材の確保で出遅れてしまいます。
逆に、今から少しずつ準備を進めれば、制度改正が始まる頃には「制度に対応できている会社」として、求職者や取引先からの信頼も高まります。
これからの建設業経営は、
- 制度を知ること(最新情報を常にキャッチする)
- 会社の仕組みを整えること(昇給制度・教育体制・評価基準)
- 資金面の裏付けを作ること(補助金・助成金・金融機関との連携)
この3つが柱になります。
※厚生労働省が管轄する 助成金の申請手続きは、法律により 社会保険労務士の独占業務と定められています。そのため、当事務所で対応することはできませんが、 提携している社会保険労務士事務所と連携して制度をご案内 することは可能です。
私自身、建設業許可や経営事項審査、補助金申請などを通じて、現場と制度の橋渡しをしてきました。
制度改正を“負担”ではなく“成長のきっかけ”に変えるためにも、今から動き出すお手伝いができます。
「人材も制度も味方につける経営」を、一緒に形にしていきましょう。