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毎年やってくる“夏のピンチ”――資金繰りが不安なこの時期に
建設業に携わる方なら、毎年のようにこの時期に感じる“あのプレッシャー”に覚えがあるはずです。
「盆前の支払いが重なるけど、入金はまだ先…」
「急な材料費の上昇で資金繰りがきつい」
「職人への支払いは遅らせたくないけど、どうすれば…?」
毎年、盆前と年末の“二大資金ピーク”は、現場を預かる経営者や監督にとって頭の痛い時期です。特に今年は、材料費や人件費の上昇もあり、「例年通り」が通用しなくなってきました。
そんななか、国土交通省が8月1日に発出したのが、いわゆる「盆暮れ通達」。
この通達、実は資金繰りや契約トラブルの“予防策”として、現場サイドにも知っておいてほしいポイントが詰まっているんです。
たとえば──
- 新しい労務単価に合わせた契約がちゃんとされているか?
- 材料費・機械経費・建退共の掛金が見積に入っているか?
- 手形での支払いが近いうちに禁止になるのはご存じ?
こうした制度やルールの変化を知らないまま仕事を進めていると、あとから「支払いトラブル」「経審でマイナス評価」「元請との信頼悪化」など、じわじわと経営に響く問題につながりかねません。
この記事では、今回の通達の中身をわかりやすく解説しながら、「じゃあ、現場として何をすればいいのか?」という視点で、すぐに実践できる対応策までお届けしていきます。
請負金額は据え置き、でも支払いは増加中?――現場で起きている“ひずみ”
「単価は変わってないのに、人件費も材料費も上がってて…もうギリギリですよ」
千葉県内で外構工事を請け負う中堅の建設会社社長が、そんな言葉をこぼしていました。
今年3月、公共工事に使われる設計労務単価は全国平均で6.0%上昇。
しかし現場の実感としては、「民間の工事ではその単価がまったく反映されていない」という声が多く聞かれます。
見積書に入れにくい“あの費用”
例えば…
- 材料費は昨年比で1.3倍
- 建機のレンタル代も値上がり
- 職人の確保に必要な賃上げ
- 建退共の掛金(※地味だけど確保必須)
こういったコスト増を見積書にしっかり反映しようとすると、発注者から「高すぎる」「他に安くやる業者がいる」と跳ね返されることもあります。
特に民間の発注者にとっては、「設計労務単価」と言われてもピンとこないのが現実。
結果として、昔ながらの金額感覚での契約が温存され、「下請けだけが損をする構造」になりがちです。
実際に起きている支払いトラブル
また、いまだに根強く残るのが手形払い。
建設業界では「当たり前」になっている取引慣行ですが、資金繰りの逼迫する8月・12月に、3ヵ月・6ヵ月先の手形を渡されても現金化できず、結局金融機関への借り入れでしのぐ…という声も少なくありません。
さらには、契約内容の曖昧さから、後になって
- 「この費用は見積に含まれてない」
- 「支払いはもう少し待って」
といったトラブルが発生し、関係性が悪化した事例も。
ではどうすればいいのか?
「契約は契約。あとでゴネても通らない」
それは確かにその通りですが、一方で制度的にも「適正な契約・支払い」を後押しする動きが強まっています。
次章では、今回の「盆暮れ通達」の中身をわかりやすく紹介しながら、制度としてどう整備されつつあるのかを見ていきましょう。
制度はちゃんと追いついてきている――「盆暮れ通達」で示された6つのポイント
毎年この時期に出される「盆暮れ通達」。
今年(2025年8月1日)の通達では、例年以上に踏み込んだ内容が盛り込まれ、現場の負担軽減や適正な契約の実現に向けたメッセージが明確になりました。
特に注目すべきポイントを、わかりやすく整理してご紹介します。
① 新労務単価を踏まえた契約を
2025年3月から、公共工事の設計労務単価は全国平均で6.0%アップしました。
これは単なる“国の基準”ではなく、現場の技能者の確保・育成に必要な金額として示されたものです。
通達では、民間工事においてもこの新単価を踏まえた請負契約を締結するよう求めており、元請・下請ともに「安かろう」ではなく「適正な金額での契約」を結ぶことが前提になっています。
② 材料費・機械経費・建退共も見積に含めて
見積書にはこれまでも「労務費」「法定福利費」「安全衛生経費」が必要とされてきましたが、今回の通達ではさらに、
- 材料費
- 機械経費
- 建設業退職金共済制度(建退共)の掛金
といった要素についても、適切に見積に反映するよう求められています。
特に建退共の掛金は、職人さんたちの将来に直結する重要な制度です。
③ 電子申請の活用が推奨されている
建退共の手続きについては、従来の紙手続きに加え、電子申請方式の活用が推奨されています。
建設キャリアアップシステム(CCUS)との連携も意識した設計になっており、元請側が下請と連携して進める体制が求められています。
これは事務負担を減らすだけでなく、トレーサビリティ(履歴管理)という観点でも重要です。
④ 労働時間の柔軟な運用もOK
人手不足の中で、長時間労働が問題になる一方で、「閑散期と繁忙期で仕事量に差がある」のも建設業の特徴です。
そのため、変形労働時間制の活用があらためて周知されました。
「36協定だけじゃ対応しきれない」という声に対して、法制度の枠の中で柔軟に働ける選択肢が用意されているというわけです。
⑤ 違反行為は“駆け込みホットライン”へ
下請け代金の未払い、過度な買いたたき、不適切な契約条件――
こうした違反が疑われる取引については、地方整備局に設置された「駆け込みホットライン」で通報を受け付けています。
しかも、希望すれば通報者の身元は伏せられ、調査方法も工夫されるとのこと。
「後々面倒になるのでは…」という不安に配慮した運用が明示されています。
⑥ 2026年から“手形”が使えなくなる?
下請法の対象となる業務(建材製造、設計書作成など)においては、
2026年1月から手形払いが全面禁止になります。
現場では「手形が普通」という意識が残っていても、制度は確実に変わっていきます。
早めに「資金繰りの見直し」や「契約方法の転換」が必要です。
制度を知って終わりにしない――いま現場でできる5つの備え
「制度はありがたいけど、現場が変わらなきゃ意味がない」
多くの建設業経営者が感じているのは、まさにそこかもしれません。
でも安心してください。
制度の変更や通達をうまく活かすことで、現場も経営も少しずつ“持続可能”なかたちに変えていけます。
ここでは、すぐに取り組める5つの行動を提案します。
1. 契約書・見積書のチェック項目を見直す
まずは「今出している見積書」に、以下の項目がしっかり盛り込まれているかを確認しましょう。
- 最新の労務単価に基づいた人件費
- 材料費・建機代などの実勢価格
- 法定福利費、安全衛生経費
- 建退共掛金
これらが反映されていないと、後から自社の持ち出しになりかねません。
実際に「建退共の分を見積もりに入れ忘れていた」というだけで、月数万円の損失になるケースもあります。
2. 「見積交渉は当たり前」という文化にする
とくに民間発注者の場合、設計労務単価や建設業法のルールに詳しくないことも多いです。
そこで重要なのは、こちらから「交渉する姿勢」を見せること。
- なぜこの単価が必要なのか
- どういう制度背景があるのか
をわかりやすく説明することで、価格交渉が「値上げのお願い」から「正当な交渉」に変わります。※交渉の際に制度を簡単に説明できるよう、1ページ資料などを用意しておくと効果的です。
3. 電子申請・CCUSへの対応を進める
建退共の電子申請や、建設キャリアアップシステム(CCUS)との連携は、いまや「先進的な取り組み」ではなく「必要なインフラ」になりつつあります。
- 現場での登録
- 申請方法の確認
- 協力業者への説明
などをこのタイミングで見直しておくと、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。
4. 手形文化からの脱却を意識する
2026年1月以降、一部業務では手形支払いが禁止になります。
これをきっかけに、社内の資金繰り・契約書・支払いサイトを見直す企業が増えています。
- 定期的な入金サイクルを持てるよう、契約形態を工夫する
- 緊急時に備えた資金調達方法を準備しておく
- 早期現金化に協力してくれる元請との信頼関係を築く
こうした積み重ねが、「資金で困らない会社」をつくっていきます。
5. トラブルに巻き込まれたら、まずは相談
もしも契約トラブルや違法な取引に巻き込まれてしまったら、駆け込みホットラインの利用をためらわないことです。
「通報者が特定されるのでは?」という不安もありますが、今年の通達では調査方法の工夫と身元秘匿の徹底が強調されました。
制度の後押しがある今こそ、「声を上げられる環境」が整いつつあります。
また、信頼できる実務者(たとえば行政書士など)に相談することで、状況の整理や法的な整理もスムーズになります。
変わる現場に、変わらない覚悟――制度は“味方”にできる
建設業を取り巻く環境は、いま静かに、でも確実に変わりつつあります。
- 労務単価の上昇
- 電子申請の推進
- 手形文化の見直し
- トラブル時の通報体制
どれも、これまで「仕方ない」で済ませていた現場の慣習を、少しずつ“見える化”し、改善していこうという動きです。
もちろん、すぐにすべてを変えることは難しい。
ですが、毎年訪れる「盆暮れの資金繰り地獄」に少しでも備えるなら、今年こそがその“第一歩”にふさわしいタイミングかもしれません。
📌 最後に――こんな行動から始めてみませんか?
- 今月の見積書、どこかに「抜けてる費用」はありませんか?
- 建退共の掛金、確実にカバーできていますか?
- 元請さんとの契約内容、しっかり説明できる内容ですか?
- 手形じゃなく現金払いの交渉、できる土台はありますか?
こうした問いかけを、社内で共有するだけでも、大きな前進になります。
そしてもし、「制度や交渉ごとは苦手」「どこから手をつけていいかわからない」と感じたら――
私たちのような建設業支援に特化した専門家(行政書士など)を、気軽に頼ってください。
現場と制度をつなぐ“翻訳者”として、契約書や見積書の見直し、資金繰りの整理、必要な届出・申請のサポートなど、一緒にできることはたくさんあります。
資金繰りで苦しむ8月を「また今年も…」で終わらせないために。
小さな一歩が、きっと未来を変える大きな動きにつながります。
どうか、今年の“盆前”がその転機になりますように。
✨建設業の契約・許可・経営支援でお困りの方へ
元請・下請の立場にかかわらず、「制度を理解して動けること」は大きな武器です。
建設業許可や経営事項審査、建退共やCCUSなど、専門的な部分は、制度に強い実務家(行政書士など)に相談してみてください。
現場の味方として、経営者の皆さんと一緒に考え、動くサポートをしています。
お気軽にご相談ください。