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「ウチのやり方が通じない?」若手が感じる違和感の正体
建設業界で代替わりのタイミングを迎える企業が増えています。ベテランの経営者から若い世代へのバトンタッチ。その過程で、こんな声を聞くことが少なくありません。
「親父の時代のやり方はすごいと思う。でも、いまの発注先には通じないんです…」
これは決して技術や経験の問題ではありません。
むしろ、若手の方が図面や工程管理、申請手続きまで幅広くデジタルに精通していたりします。
ただ、「どこから変えたらいいか分からない」「自分ひとりで改革を進めるには不安がある」と感じる後継者が多いのも事実です。
いま、公共工事の現場では電子契約の導入が急速に進んでいるのをご存じでしょうか?
国土交通省の調査によれば、2025年時点で都道府県・政令市の9割以上(63団体)がすでに電子契約システムを導入・検討中。そのうち3割以上(19団体)は、すべての契約で電子契約を使っている状況です。
一方、市町村レベルではまだ導入率が10%未満とされています。
つまり、公共工事の元請けや一次請けポジションでは、電子契約がすでに“前提”になりつつあるのです。
このギャップが、現場と本社、ベテランと後継者、上流と下流の間で、見えない壁をつくっています。
「どうしてわざわざ紙でやるの?」「印紙税がもったいない」
そんな疑問を持つ若手が、親世代のやり方に“違和感”を感じるのは自然なことです。
変化の波はすでに来ています。
それに対応できる体制づくりを、経営者と後継者が一緒に考える時期に来ているのかもしれません。
契約書の山、印紙代、郵送ミス…「紙」が生むムダとリスクとは?
建設業の現場では、いまだに「紙の契約書」が当たり前のように使われています。
「契約=紙+押印」という習慣は根強く、特に中小建設業者では「電子契約ってよく分からない」「導入コストが心配」といった声も聞かれます。
しかし、紙の契約書を維持するには、想像以上の負担がかかっているのが実情です。
📌 たとえばこんな「現場あるある」
- 工事のたびに契約書を2通印刷、押印、郵送。届いたらまた確認して押印して返送…
→ 郵送のタイムラグで着工が遅れたことも。 - 契約金額に応じた印紙税(数千円〜数万円)が毎回発生。
→「印紙貼り忘れた!」「金額間違えた!」など、税務調査の不安にもつながる。 - 書類の保管は本社の倉庫の奥。必要なときに出てこない。
→ 「あの書類どこ?」「あれって誰がサインした?」と情報共有の手間が倍増。
こうした「紙の文化」が、時間・お金・人の手間を無駄にし、ひいてはミスやトラブルの温床になっているケースが少なくありません。
📌 一方、発注側(自治体や元請け)はどんどん電子化へ
国の方針を受けて、発注側の多くは電子契約の導入を進めています。
- 都道府県・政令市の9割以上(63団体)が導入・検討中
- うち19団体は「すべての契約で電子契約」を実施済
- 設計図書まで電子化している自治体も24団体にのぼる
つまり、「うちは紙で十分」では、通用しない時代が目の前に来ているのです。
発注者側が電子化を進めているのに、受注者側が紙のままだとどうなるか。
契約のやりとりに余計な時間と手間がかかるだけでなく、
「時代遅れ」「非効率」「発注しづらい」と評価されかねません。
📌 実際に起きた「もったいない事例」
ある中堅建設会社では、電子契約の提案を受けたものの、「紙で慣れてるから」と社長が断っていました。
ところが、公共工事の入札では「電子契約対応」が条件となり、入札の対象外にされてしまったのです。
その結果、若い後継者が中心になって電子契約システムを導入。
初期の負担はあったものの、郵送・押印の手間が減り、印紙税も不要に。
「こんなに早く契約が完了するとは」と、社長自身が驚いたそうです。
変化を拒むことで、目に見えない「損」をしているかもしれません。
次章では、このような変化の背景にある制度や国の方針を、わかりやすく解説していきます。
制度はここまで来ている!電子契約が求められる時代背景とは
なぜ、今ここまで「電子契約」が重要視されているのでしょうか?
その背景には、単なるデジタル化ブームではなく、国の制度・法律・方針がしっかりと動いている現実があります。
📌 国土交通省が掲げる「ICT活用」と電子契約の位置づけ
2023年末、国土交通省は「ICT活用指針」を発表しました。
これは第3次担い手三法(公共工事品質確保法、入札契約適正化法、建設業法)に基づき、建設現場の生産性向上を本格的に進めるためのものです。
その中で、特に強く打ち出されたのが、電子契約の活用。
「契約業務を電子化することで、印紙税・移動費・郵送費の削減、契約手続きの迅速化を図り、受発注者双方の事務負担を軽減する」
と明記されています。
さらに、「入札契約適正化指針」や「品確法基本方針」といった政策文書の中にも、電子契約の導入・推進が具体的に盛り込まれているのです。
📌 数字で見る導入状況…もう“先進的な取り組み”ではない
実際の導入状況を見てみると、もはや電子契約は「一部の先進自治体だけの話」ではありません。
- 都道府県・政令市のうち、9割超(63団体)が導入または検討済
- 19団体は「原則すべての契約で電子契約を活用」
- 設計図書も含めて契約関係書類を電子化しているのは24団体
- 電子決済との連携に踏み出している自治体も20団体
一方で、「導入していない」と回答した自治体はわずか4団体にとどまります。
この流れは、元請け・大手事業者にとどまらず、下請け・中小業者にも確実に及んでいくことが予想されます。
📌 市町村や中小企業は遅れがち。その差が“受注機会”を分ける
ただし、すべての自治体が同じスピードで進んでいるわけではありません。
市町村レベルでは、2023年度末時点で電子契約の導入率は10%未満。
これが何を意味するかというと──
- 「今のうちに電子契約に慣れておけば、市町村から都道府県・国の案件にも対応しやすくなる」
- 「発注者の電子化に対応できる業者」として評価が高まり、受注競争で有利になる
ということです。
また、補助金や経営事項審査(経審)の場面でも、ICTへの対応姿勢や実績が評価項目に加わる流れが出てきています。
第4章 ゼロから始める電子契約対応|中小建設業でもできる4つのステップ
「電子契約が大事なのはわかった。けど、うちはITに強くないし、そもそも何から始めればいいか分からない…」
そんな声をよく耳にします。
でもご安心ください。いきなり完璧を目指す必要はありません。
中小の建設業者でも、無理なく・少しずつ進められるやり方があります。
📌 ステップ① まずは「どこで紙が発生しているか」を洗い出す
最初にやるべきは、業務フローの棚卸しです。
「契約書は誰が作っている?」「どこで印刷している?」「郵送や押印にどれくらい時間がかかっている?」など、現状を可視化してみましょう。
→意外と、現場よりも本社の事務作業がボトルネックになっているケースもあります。
📌 ステップ② 「ひとつの現場」から試験導入する
すべてを一気に電子化する必要はありません。
たとえば、元請けや自治体から電子契約を求められている案件を選び、その案件だけで電子契約システムを試してみるのがオススメです。
- 初期費用のかからないクラウド型サービスを選ぶ
- 操作が簡単なもの(PDFアップロード→送信→署名)の流れが分かるもの
など、中小でも扱いやすいサービスが増えています。
📌 ステップ③ 社内・取引先との不安を“見える化”して解消
電子契約への切り替えで不安に思うのは、現場の職人さんだけではありません。
- 「紙じゃないと不安」
- 「電子署名って法律的に大丈夫?」
- 「年配の取引先にどう説明すれば?」
といった声に対しては、自治体の動画マニュアルや国のガイドラインを活用しましょう。
たとえば、福井県や横浜市では、職員や受注者向けの分かりやすい資料・動画を公開しています。
こうした先行事例をうまく使うことで、周囲の理解と協力を得やすくなります。
📌 ステップ④ 「経審」「補助金」などとの連携を意識する
電子契約の導入は、単なる効率化だけではありません。
今後の経営戦略にもつながる「投資」と捉えることが重要です。
- 経営事項審査(経審)の加点対象になる可能性
- DX補助金やICT導入支援補助の対象になる可能性
- SDGs・脱炭素・ペーパーレスのPRにも活用可能
つまり、「できる会社」「選ばれる会社」としての信頼にも直結します。
そして小さな一歩は、やがて大きな差になります。
第5章 時代の波に乗るのは、今からでも遅くない。次の一歩を共に考えませんか?
建設業界は今、かつてないスピードで変化しています。
その一つが「契約手続きの電子化」。
これは一部の大手企業やITベンチャーの話ではありません。
実際に現場で働く皆さん、そして中小建設業者にとっても、確実に“日常の風景”になりつつあります。
📌 「紙」から「デジタル」へは、小さな一歩からで大丈夫
- まずは1件の工事で電子契約を試してみる
- 印紙代や郵送の手間がなくなることを体感する
- 「意外と簡単だった」と思う経験を重ねる
そうして徐々に社内に広げていくことで、現場のムダが減り、信頼が増し、受注機会も広がる。
これが、ICTを味方につけた建設業の「次の姿」です。
📌 後継者世代の視点を、経営の武器に変える
若手の後継者や新しい現場リーダーたちは、デジタルに慣れた世代です。
彼らが「もっとこうできるのでは?」と感じる視点こそが、これからの経営に不可欠な視点です。
もし経営者の方がこの記事を読んでいるなら、
「ウチも変わらなきゃな」と思った瞬間から、新しい流れが始まります。
📌 わからないこと、不安なことは、専門家に聞けばいい
電子契約や制度の導入は、最初はわかりにくいこともあります。
そんなときは、自分たちだけで抱え込まず、制度と現場の“橋渡し”ができる専門家に相談するのもひとつの方法です。
たとえば、私たちのような行政書士は、建設業許可や経営事項審査、電子契約導入の支援も行っています。
制度の言葉を「現場の言葉」に翻訳し、実務に落とし込むお手伝いができる立場です。
「今さら聞けない」「うちには無理かも」と思わずに。
いま動き出すことが、会社と現場の未来を守る力になります。
あなたの会社の挑戦を、そっと、でもしっかり支える存在でありたい。
そんな想いで、これからも実務支援に取り組んでいます。